新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)によって、ヘルスケア産業は国家間のパワーバランスを左右するまでの存在となり、競争は激しさを増している。その渦中で日本が存在感を発揮することはできるのか。鍵を握るものの一つとして期待されているのが、iPS細胞を使った再生医療だ。特集『賢人100人に聞く!日本の未来』(全55回)の#52では、日本における再生医療の第一人者である、ビジョンケア社長で眼科医の高橋政代氏に、日本のヘルスケア産業の未来像について聞いた。(ダイヤモンド編集部 野村聖子)
日本の病院の利益率の低さは
海外企業への“上納”の産物
――各国で新型コロナウイルスのワクチン・治療薬の開発競争が繰り広げられていますが、このコロナ禍でヘルスケア領域は、もはや個人の健康を守るサービスという枠を超えて、国防や安全保障、そして国家間の覇権争いといった様相を呈しています。
たとえ健康に自信があっても、医療がいかに大切か、そして国を浮沈させるほどの力を持つものだということを、改めて一般の人々が実感したのではないでしょうか。
ある意味、コロナ危機下では、多かれ少なかれ全ての人が何らかの“障がい”を抱えて生活せざるを得なくなったわけですから。
――“障がい”ですか。
例えば、感染予防のために多くの労働者は通勤ができなくなり、自宅での仕事を余儀なくされました。これは、私の専門領域である網膜変性疾患の患者さんと全く同じ状況です。
彼らは視野障害のため通勤が困難な方もいるのですが、通常のデスクワーク自体は問題なく行える。
むしろ、コロナ危機で普及したテレワークにおいては、パソコン、オンラインのデバイスや周辺機器などに疎いことの方が“障がい”となりました。
このように健常者と障がい者の境界線というのは、実は曖昧なものです。もちろんコロナ危機による社会へのダメージは計り知れませんが、私が常々訴えてきた「本当は誰もが“障がい”を抱えて生きている」ということを、一般に理解してもらいやすくなったのではないかとは思っていますね。
――コロナ危機下において、日本の医療現場では、マスクや防護服、人工呼吸器などの医療機器、検査キット、試薬が慢性的に不足するなど、これらを海外からの輸入に頼っていた付けが露呈しました。
昔、手術の合間の休憩中に、部屋の中にある高額な医療機器や資材を眺めていたら、その多くが外国製。
「私が働いた利益は、多くがこの会社に行くのか」
ため息が出たのと同時に、これまで病院がいつも「お金がない」と言ってきた理由が、やっと理解できたんですね。日本の病院の利益率の低さは、いわば海外企業への“上納”の産物なのだと。もちろん、日本企業がこれらに投資するリスクを取れなかったということもあります。
私が起業したモチベーションは、このときの体験がルーツになっていて、だからこそ、再生医療(失われた臓器や組織を、細胞や組織などを用いて機能回復を目指す治療)は必ず日本発の技術にしなければならないと思っています。