集学的治療でなければ
トンネルの出口は見えてこない

 他のスタッフにも話を聞いてみた。

 センター長の高橋紀代医師の専門はリハビリテーション医学。痛みを抱える人の健康や日常生活の質を上げるために、運動療法や作業療法などのリハビリテーション手法を治療として用いている。

「慢性痛の場合、痛みを訴える部位に急性痛(ケガや疾病による痛み)のようなアプローチをすると、よりその部位に固執するようになり良い結果を生みません。慢性痛の場合、痛みを訴える部位は、痛みのきっかけとなった場所やたまたまそこに痛みとして表れているとして捉えます。そのため、リハビリテーションのアプローチも痛みを訴える部位へのアプローチではなく、全身へのアプローチ、全身運動や日常生活動作などの動作指導となります。また、慢性痛の病態や従来の医療と異なり患者自らが能動的に治療に参加するという点の理解が必要であるため、リハビリテーションの場面だけでなく、診察でもより教育的な関与が必須となります」

 痛み診療コーディネーターとして、専門家チームの調整に当たっている中原理さんの専門は理学療法士。入院治療の高い効果に感動した経験を語ってくれた。

「その患者さんは、入院時には車椅子でした。サラリーマンで痛みのために動けなくなり、会社も休職して、寝たきり状態になっていたのです。

 私たちはまず、動ける体に戻そうと、痛みに対する恐怖心を和らげながら運動してもらい、筋力強化を図りました。それから日常生活に則したことを、作業療法で一つ一つできるようにして行き、退院が近づいたころには、私たちが付き添って職場まで交通機関を使って一緒に行きました。朝の通勤ラッシュに合わせてでしたので、体力的にも精神的にも大変だったと思いますができるようになって退院し、その後は復職した上に、スキーなどのスポーツができるまで回復しました。ご本人も喜んでおられましたが、私たちもうれしかったです」

 公認心理士の那須貴之さんは、慢性疼痛集学的入院リハビリテーションの一環として「調整的音楽療法」という技法を採り入れている。音楽を聞いたり演奏したり、歌ったりする際の生理的・心理的・社会的な働きを応用して、身体的感覚や内的感覚に対してあるがままを受け入れ心理的距離をおいて俯瞰すること、不快な感情にとらわれず意識を切り替えるというスキルを身に着けてもらうことを目指す。

「ある患者さんは音楽を聴き終わった後のセラピストと体験共有をしているときに、涙を流しながら『この病気になってからゆっくり音楽を聴くことってなかった、こんな時間はいつ以来だろう。そういえば○○(アーティストの名前)が好きだったなあ、今聴きたいなあ』と話し始めました。痛みへのとらわれからとりあえず距離を置いて、よりよい生活に対する模索があり、その方法を言語表現できた瞬間かなと感じました」

 こうした専門家たちのスキルと努力が集まって初めて、慢性痛の、長くつらい痛みのトンネルの出口が見えてくるのである。