『独学大全──絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』が10万部を突破! 本書には東京大学教授の柳川範之氏「著者の知識が圧倒的」独立研究者の山口周氏「この本、とても面白いです」と推薦文を寄せ、ビジネスマンから大学生まで多くの人がSNSで勉強法を公開するなど、話題になっています。
この連載では、著者の読書猿さんが「勉強が続かない」「やる気が出ない」「目標の立て方がわからない」「受験に受かりたい」「英語を学び直したい」……などなど、「具体的な悩み」に回答。今日から役立ち、一生使える方法を紹介していきます。(イラスト:塩川いづみ)
※質問は、著者の「マシュマロ」宛てにいただいたものを元に、加筆・修正しています。読書猿さんのマシュマロはこちら

「生まれつき愛嬌がない」をいっきに解決するとっておきのスゴ技

[質問]
 表情豊かに笑顔や愛嬌を身に着ける方法はありますでしょうか?

 私は愛嬌がなくて困っています。コミュニケーションをするときに表情が硬くなってしまいます。笑顔や愛想笑いが苦手です。何回か会っている人とは徐々に仲良くなれたりコミュニケーションを取れるのですが、面接や交流会など一発勝負のコミュニケーションの時はあまり話せず、しかも表情が硬すぎて印象が悪くなって印象が悪くなっていると思います。

 こんな私でも表情豊かに笑顔や愛嬌を身に着ける方法はありますでしょうか?

[読書猿の回答]

愛想笑いを練習する必要はありません

 あなたが初対面で笑えないのは、笑うことを知らない(行動レパートリーにない)からではなく、緊張して笑うどころではないからです。そしてなぜ緊張するかといえば、「コミュニケーションがうまくいかないのでは?」と恐れるからです。

 苦手意識→心配→緊張→失敗→苦手意識……というループ(悪循環)がこの問題の構造です。
ループを切断ないし切り替えることができれば何でもよいのですが、多くは逆説的な介入を使います。ですが逆説的介入については何度も回答しているので、ここでは別のことを書きます。

「一発勝負」とお書きになっているように、面接や交流会のような一回きりのコミュニケーーションには勝ち負けがあるように思えますが、これはかなり特殊なものです。ヒトのコミュニケーションは同じメンバーで継続的に行われることが普通で、時間をかけて関係を育てるようにできています。人間の認知には多くの脆弱性があり、一回きりの関係では騙されやすいからです。そして本来コミュニケーションには成否も勝敗もありません。一時の食い違いは起こりますが、それは引き続くコミュニケーションの機会であり資源となります。最終的に合わなければ止めて離れればいいので、これも勝ち負けではありません。

 一回きりのコミュニケーションの場は、人工的にデザインされたものですが、多くの参加者はデザインする側に立つことはありません。

 面接の場面が分かりやすいのですが、そこでのコミュニケーションの成否を決定するのはあなたではありません。場を設定するのも、そこでの評価基準を決めるのも、成功/失敗した者を振り分けるのも、みな採用側です。なのに不合格者の多くは「自分のどこが悪かったのか」と考え、失敗を自分にせいにします。

 一回きりのコミュニケーションの多くは、デザインする少数者が権限を独占し、デザインしない側の参加者が責任を引き受ける(あるいは押し付けられる)不公平な構造になっています。

 おそらくあなたは、デザインされたコミュニケーション構造を俯瞰しハックすることで一発勝負の中で勝利を得る道を望まれないでしょう。それでも不公平な構造についてお話したのは、自責にかられて、あなたの魂を傷つけてもらいたくないからです。

 愛想笑いなど練習しなくても、笑顔になることは可能です。勝ち負けを競う中にも人間らしい人はいて、必死で余裕のないアピールの中にも本当のものの欠片はあるものです。これを探し見つけるには、だれもが自分がどう見えるかに夢中になる中、周りを、相手をよく見ること聞くことが必要です。

 全体としてはいただけないが、その人が口にした一つのエピソードや言葉にだけは本当のことがあることに気づけたら、「ああ、見つけた」と思って、「それいいですね」「素敵ですね」と心の中でいいので言ってみてください。その時、あなたは素敵に笑っていると思います。