
試験の前日や大事なプレゼンの前日に、不安でたまらなくなる経験は誰にでもあることだろう。しかし実際には、不安を回避するためにとる行動の多くが、むしろ不安を悪化させることをご存じだろうか。第2次世界大戦下で空襲にさらされたロンドン市民を例に、「不安」の正体とメカニズムを解き明かす。※本稿は、スコット・H・ヤング著、小林啓倫訳『SENSEFULNESS(センスフルネス) どんなスキルでも最速で磨く「マスタリーの法則」』(朝日新聞出版)の一部を抜粋・編集したものです。
第2次世界大戦を前にして
空襲の甚大な被害を予測したが……
第2次世界大戦前の数年間、ドイツとの対立が避けられないものになるにつれて、英国をはじめとする各国の指導者たちは新たな種類の危険性について考え始めた。それは、航空機が主要な人口密集地の上に爆弾を落とす可能性である。
それ以前に起きた第1次世界大戦中の空襲は限定的なものだった。この戦争全体でロンドンに投下された爆弾は、わずか300トンだったのである。
2つの大戦の間の数十年で技術が進歩し、それに伴い破壊の規模も新たなレベルに達した。戦略立案者たちは、ドイツが突然の電撃戦を開始し、最初の24時間で3500トンの爆弾を投下して、その後数週間にわたって毎日数百トンを投下する可能性があると予想した。
予測される死傷者は数十万人にのぼり、数週間で都市全体が壊滅するかもしれないと考えられていた。
物理的な破壊に加えて、政治家、指導者、心理学者のすべてが、大規模なパニックは避けられないという見解で一致していた。ウィンストン・チャーチル(編集部注/第二次世界大戦中のイギリスの首相)は演説において、爆撃により、300万人から400万人が主要な大都市圏から逃げるだろうと予測した。