悩む時期は
土の中で根を張る期間

菊間千乃氏からコロナ下の就活生の親へ、不透明な時代はむしろチャンス

「退社した背景には、当時40歳を過ぎて第一線で活躍する女性アナウンサーの先輩が少なかったという理由もあります。会社員を続けるか弁護士になるか、40歳、50歳になったときの自分を想像して、どちらが楽しくて輝いているだろうと考えると、断トツで弁護士でした」

 周囲からは、なぜ安定した生活を捨てて、無謀な挑戦をするのかという声もあった。

「私、安定とか予定調和という言葉がいちばん嫌いなんです(笑)。アナウンサー時代、取材のときに台本があっても、その通りに質問したことはありません。素の言葉を引き出すのに台本はないでしょうと考えていたから。だから、人生も予定調和にするつもりはなかったですね」

 1回目の試験に不合格になったときは、さすがに退社を後悔した。だが、すぐに気持ちを切り替えた。不確定要素の多い仕事と違い、受験勉強は頑張りが素直に反映される。勉強に集中さえすれば、必ず合格するという自信はあった。そして2回目の試験に合格する。

「私にも、悩む時期はもちろんありますよ。今だって色々悩んでますし。でも、悩む時期は土の中で根を張る期間だと考えています。土の中でビシっとした根を張りさえすれば、芽が出た後は一直線に伸びていく。だから悩む時期は無駄ではない。むしろ悩む時期が短いと、風ですぐ倒れちゃったりしますよね」

 1年間の司法修習を経て、12年1月から現在の弁護士法人に所属、新たなキャリアがスタートした。担当する分野は主に企業法務で、最近はハラスメント等のセミナーの講師を担当することも多く、元アナウンサーの技量がそこで生かされている。 

「弁護士の仕事の醍醐味は、新しい“生の事件”が毎日やってきて、頭を使ってそれを解決していくこと。伝えっぱなしで終わるというアナウンサー時代の葛藤もなく、複数の弁護士で議論をしながら最適の解答を見つける作業は、まるで戦国時代の武将の作戦会議のような感じで、本当に楽しいです」

まず、親自身が
しっかり生きることが大切

 今、社会に出ていく学生たちに声をかけるとしたらどんな言葉になるのだろう。

「“先行き不透明、よっしゃ!”という感じですね(笑)。フリータイムの時間まで指定されたツアー旅行が退屈なように、決まりきった人生なんて何が楽しいのかと思います。安心安全なだけの旅行では、なんの思い出も残らない。困難を乗り越えてこそ、人は成長するんです」

 チャンスは自分で掴(つか)み取るもので、レールに乗っていて与えられるものではない。法学部を卒業してそのまま弁護士になるより、社会人経験をしてから弁護士になったこともプラスに働いていると菊間氏はいう。より幅広い視点を持ってクライアントに寄り添えるからだ。

「企業のインターンシップにしても、他の誰よりもこの会社から何かを学んで帰ろう、という意識で参加すべきだし、若いうちは色眼鏡でものを見ず、自分の興味がないものにもあえて挑戦してみるべきだと思います。色々な刺激を受けて、その経験を自分の中でぐるぐる攪拌(かくはん)するうちに、本当にやりたいことが見えてくる。答えは自分の中にしかないんです」

 そして親世代に言いたいのは、くれぐれも就職に口出しをしないこと(笑)。

「子どもは親が思っている以上に、親の影響を受けます。その親がしっかり生きていないと、“大人なんて”となってしまう。まず、親自身がしっかり生きることが大切だと思います」