プロのピアニストから圧倒的支持を受けるトップブランド「スタインウェイ」。世界のコンサートの9割以上でスタインウェイが使われているといいます。同じくピアノメーカーであるヤマハはその牙城を切り崩すことができるのでしょうか。ビジネスモデルの視点から、前後編にわたって考察します。前編となる今回は、スタインウェイの「鉄壁のビジネスモデル」について解説します。(KIT虎ノ門大学院教授 三谷宏治)
5年に一度、ショパンコンクールでの激闘
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2020年10月に予定されていた第18回ショパン国際ピアノコンクールが、翌年に延期と発表されたのは、5月4日のことでした。ショパンコンクールはピアノコンクールの最高峰※1。上位入賞すれば世界の注目を集め、ピアニストとしての将来が開けます。
この5年に一度の大舞台が1年延期となって、影響を受けるのは若きピアニストたちだけではありません。ピアノメーカーたちもそうです。こここそが、トップブランド構築の決戦場だからです。
ショパンコンクールでは4種のピアノ※2が用意され、約80人の本選参加者(コンテスタント)たちはそれを自由に選べます。入賞者の名前とともにその使用ピアノの名も発表され、「優勝ピアノ」はピアノメーカーにとっての最高の栄誉となります。2015年の第17回では、一次予選では78人中36人が、ファイナルでも10人中5人がヤマハ(CFX)を選びました。しかし結果は2位。「優勝ピアノ」となったのは、スタインウェイでした。直近の過去10回の「優勝ピアノ」のうち、9回がスタインウェイ※3なのです。
※1 エリザベート王妃国際音楽コンクール、チャイコフスキー国際コンクールと合わせて世界三大コンクールと呼ばれる。
※2 2015年は、スタインウェイ(D-274)、ヤマハ(CFX)、カワイ(SHIGERU KAWAI SK-EX)、ファツィオリ(F278)。
※3 2010年にヤマハが優勝ピアノになっている。奏者はユリアンナ・アヴデーエワ(ロシア)。