――なぜかけつぎ店を始めたのですか?
岡野 そもそものきっかけは、私がテレビ番組でかけつぎを見て、衝撃を受けたことです。大学で繊維を専攻していたので、とても興味が湧きました。調べると、かけつぎの職人は減っていて、技術が途絶えかけていることがわかりました。そして、この技術がなくなるのはあまりにもったいないと思ったのです。そこで、2017年に勤めていた飼料メーカーを辞めて、かけつぎ店に転職。2年間の修業を経て、19年、29歳のときに、かけつぎ店の先輩だった長谷川と一緒に独立したのです。
――顧客はすぐに集まったのですか?
岡野 かけつぎ自体の認知度が低いので、簡単には集まりません。そこで、私が営業担当となり、クリーニング店や洋服のお直し店などをコツコツ回って、お客さまをご紹介いただけないかとお願いしました。愛知県内だけでなく、東京や大阪、岡山なども行きましたね。個別に訪問するだけでなく、店主の方たちが集まる会合にも参加させていただき、かけつぎの実演をして、技術をアピールしました。
その結果、現在は100軒以上のお店にご協力いただき、裂け傷や穴で困っているお客さまをご紹介いただけるようになりました。コロナ禍でも仕事の依頼が途切れずにいます。
――地道な努力のかいがありましたね。
岡野 いちい信用金庫さんにも、ジュエリー店などの異業種のお客さまをご紹介いただきました。どこに需要があるのかがわからないので、異業種のお客さまも開拓しているのです。一見、無関係の業種の会社に自力で営業するのは難しいのですが、信金さんの営業の方の紹介なら、話を聞いていただけます。
――そうした広がり方もあるのですね。
岡野 いちい信金さんには、お客さまだけでなく、税理士さんや水道工事会社などもご紹介いただいています。私たちは一宮市出身ではないので、どこにお願いすればいいのかわからず困っていたので、とても助かりました。
――今後の抱負をお聞かせください。
●紬かけつぎ店 事業内容/衣類のかけつぎ、従業員数/3人、売上高/730万円(2019年度)、所在地/愛知県一宮市本町1-2-6、電話/0586-23-3988、URL/https://kaketsugi.jp/
岡野 大切な服を修理して長く着続けることは素晴らしいことです。服を「捨てる」時代から「直す」時代へと、変えていきたい。それを支えるかけつぎという技術を未来に残していくことが、私たちの使命だと考えています。そのためには、1人でも多くの方にかけつぎを知っていただく活動をしていく必要があります。今はコロナ禍で機会が減っていますが、実演できるイベントがあれば、どんどん参加していくつもりです。
(取材・文/杉山直隆、「しんきん経営情報」2021年1月号掲載、協力 いちい信用金庫)