コロナ禍に揺れた2020年を経て、21年の世界経済はどのような針路をたどるのか。特集『総予測2021』(全79回)の#6では、ノーベル経済学賞受賞者のスティグリッツ教授が、その回復を占う主な要因を分析した特別寄稿をお届けする。
コロナ禍はすぐには消え去らない
わずかな「予防」が多くの「治療」に匹敵
2021年を迎えようとする今、この上なく明らかになってきたことがある。退任するドナルド・トランプ米大統領が繰り返し示唆してきたのとは裏腹に、COVID-19はすぐには消え去らないということだ。20年春の最初のロックダウンによる深刻な低迷からすれば経済はかなり回復してきたとはいえ、世界各国におけるGDP(国内総生産)および雇用の損失は、過去100年間でも2番目ないし3番目に大きな景気後退をもたらすほどひどかった。有効なワクチン開発が間もなく実現することがますます確実になる中でも、この状況に変わりはない。
有効なワクチンが実現しても平常な状態に戻るには時間を要する。すると、その過程でどの程度のダメージが生じるのかとの疑問が湧いてくる。その答えは、主要国が今後数カ月の間に推進する経済政策次第ということになろう。ただでさえ、ヒステリシス(履歴による、長期的な)効果が生じる可能性は大きい。ガタガタになった家計・企業のバランスシートの回復は緩やかに進行するだろう。ウイルスが制圧可能になったとしても、パンデミックの中で倒産した企業が突然復活するわけではない。
こうした影響に対処するに当たり、わずかな「予防」が多くの「治療」に匹敵することになろう。だが現時点では、近い将来の展開は今も非常に読みにくいままである。
その理由の一つが、中国だ。08年の「グローバル金融」危機以降、中国は10年まで年約12%のGDP成長を達成し、グローバル経済の回復における主役となった。
だが今回、危機後の中国の成長はもっと緩やかで、貿易黒字が増えていることからも、過去に見られたよりグローバル経済を支える効果は小さくなる。視野を広げれば、世界の先進諸国はGDPの大きな損失を予防するためにかなりの財政赤字を抱える余裕があるが、開発途上諸国・新興市場諸国の政府は、多少なりともそれに近いレベルの支援さえ提供できない。
21年には、20年末に欧州・米国に襲来しているような新型コロナウイルス感染の「第○波」が今後も生じる可能性に伴う不確実性だけでなく、恒久的な問題が二つ出てくるだろう。