総予測#7Photo:REUTERS/AFLO

世界的に株高が進む一方、コロナ禍からの実体経済の回復は容易ではない。特集『総予測2021』(全79回)の#7では、2008年の金融危機を“予言”し、「破滅博士」の異名を持つことでも知られる米ニューヨーク大学のヌリエル・ルービニ教授の特別寄稿を掲載。同氏は「21年の景気回復の足取りは鈍い」と分析する。

「週刊ダイヤモンド」2020年12月26日・2021年1月2日合併号の第1特集を基に再編集。肩書や数値など情報は原則、雑誌掲載時のもの。

実体経済の「K字回復」に伴い
金融市場と実体経済のギャップが拡大

 2020年末の時点で、米国を中心に、金融市場は史上最高の水準に到達した。間もなく登場するとされるCOVID-19のワクチンによって急激なV字回復に向けた条件が整うという期待によるものだ。

 先進諸国の主要中央銀行が極めて低い政策金利と異次元の金融・信用政策を維持していることも、株式・債券市場にとってはさらなる追い風となった。

 だが、実体経済における「K字」回復を背景に、こうしたトレンドは金融市場と実体経済のギャップを深めている。

 在宅勤務が可能で、既存の金融資産に頼ることのできる安定したホワイトカラー労働者の生活には余裕があるが、失業中、あるいは低賃金の不安定な業種でパートタイム雇用にある者は困窮している。こうしてパンデミックは、21年に社会不安がさらに高まる下地をつくりつつある。

 COVID-19による危機が発生するまで、ここ数年、米国株式市場の資産総額のうち84%は株主全体の10%によって保有されていたが(また上位1%が資産全体の51%を保有)、人口の下位50%はそもそも株式などほとんど保有していなかった。

 米国の大富豪上位50人の資産は、人口の下位50%(約1億6500万人から成るコホートである)の資産合計よりも多かった。

 COVID-19はこうした資産の集中を加速した。実体経済にとって不利な条件は、金融市場には有利に働いたからだ。