フィルはこうした体験のハイブリッド化を「そうせざるを得ないからやることではなく、より良い体験がつくれるからやるもの」ととらえています。そしてハイブリッド体験の好例として、アップルが毎年行う開発者向けのカンファレンス「WWDC」を挙げ、「今年オンライン開催となったWWDC 2020は、これまでで最高レベルだった」と語っています。

 感染拡大の第3波を踏まえて緊急事態宣言が再度発令された今はまだ、イメージしにくいかもしれませんが、今後はワクチンの供給が進み、コロナ禍も収束していくものと思われます。ただ、コロナの影響が収まっても、オンライン化で良くなった体験は、完全には以前と同じに戻ることはないでしょう。

 フィルは“リアルな体験が一番”という「In Real Life(IRL)」の考え方を超えた「IRL+(Better in real life)」、つまり実体験よりも良い体験が、ハイブリッド化で実現するだろうと述べています。

 もちろん、体験やコミュニケーションの内容によって、対面が多め、ライブ(リアルタイム)が多め、といった比重の違いはあると思いますが、これからの世界では、オンラインならオンラインだけ、対面なら対面だけで完結するものではなくなっていくはずです。

「リアルが一番」から
「リアルを超えたより良い体験」の実現へ

 対面とオンライン、ライブと事前収録が混じり合うハイブリッド化は、さまざまなビジネスのシーンでも今後、増えるのではないかと私は感じています。それは、リアルではあまり良い体験ではなかったことを、オンラインを混ぜることで解決できる可能性があるからです。

 例えば職場の飲み会をリアルで実施すると、普段話さない人と親睦を深めるために時間を決めて席替えを行うことや、ランダムにメンバーをシャッフルすることは、なかなか難しいことでした。

 これがオンライン飲み会であれば、Zoomの「ブレイクアウトルーム」機能を使ったグループ分けでメンバーの割り振りを自動で行うことで、簡単に実現します。タイマーを設定すれば、そのグループでの話を時間通りに終わらせることも可能です。ついつい「いつものメンツ」で固まりがちな飲み会を新鮮な体験に変え、普段やり取りのなかったメンバーとの会話が、次の日からの仕事に生かせるようになるかもしれません。