今の技術ではまだまだ、「オンラインでは嫌」という体験も残っていることは事実です。「オンライン会議ツールでは、常に相手の“正面の顔”を見ながら話すことになるのが嫌」といった声を聞くこともあります。ただし、そういう欠点も、今後、次々に解決していくはずです。
オフラインからオンラインへの移行について語るとき、しばしば「オフラインでは○○できたのに、オンラインではできない」と欠点ばかりを挙げる人を見かけます。しかし私は、オンラインでしかできないことも確実に増えてきていると感じます。ですから、そのオンラインならではの魅力に注目し、パンデミック後の世界でオフラインが復活した暁には、オンラインでできるようになったことをオフラインの方に取り入れていくことを考えるべきではないでしょうか。
カンファレンスをオンラインで開催して、私たち自身も、ハイブリッド化の良さを感じました。従来は時間の制約がある中で、登壇者が全員の質問に答えることは難しいことでした。
技術系のイベントなどではよく、講演後の登壇者に質問できる場を制限時間付きで設けるのですが、そこにはいつも長蛇の列ができていました。参加者は登壇者と名刺交換と挨拶、質問を順に行っていくのですが、質問はひと言ぐらいしかできず、登壇者にとっては重複する質問も多いので時間の効率は悪く、必ずしもこの形がベストではないと常々感じていました。
それがオンラインであれば、そもそも名刺交換の行列ができるということはありません。昨年のカンファレンスでは、Zoomの動画配信で講演を行った後、ボイスチャットツールの「Discord」にチャンネルを用意して、そこで登壇者との質疑応答ができるようにしました。テキストと音声の両方で質問ができるようにしたのですが、質問内容はチャンネルに参加する人全員が見たり、聞いたりできるので、重複して質問・回答する必要がなく、参加した全員の学びにつながる体験がつくれたのではないかと思います。
コロナ禍の収束後も、昔のオフラインの体験にそのまま戻るのではなく、オンラインで良いと感じた体験をプラスアルファで付け加えることができるはず。その考え方が体験のハイブリッド化と、従来より良い体験づくりにつながるだろうと私は考えています。
(クライス&カンパニー顧問/Tably代表 及川卓也、構成/ムコハタワカコ)