フランスで流通する「エセかつお節」にがくぜん
フランス・ブルターニュ地方の港町で、本格的な「枕崎鰹節」が生産されている。「枕崎」は、鹿児島県の南端にあって、鰹節の代名詞ともいえる土地だ。全国シェアの4割を占め、最高級の本枯節(ほんかれぶし)は料理人垂涎の的である。
なぜ、フランスで鰹節が作られているのか。生産する枕崎フランス鰹節の社長・大石克彦(61歳)はこう語る。
「フランスで鰹節のまがい物が流通しているのを見てがくぜんとしました。和食ブームといわれていますが、これでは本当の和食といえない。枕崎で作る鰹節により近いものを現地で生産するしかないと考えました」
同社は、枕崎市の鰹節製造業者など9社と、その事業者の組合である枕崎水産加工業協同組合(以下、協同組合)の出資によって2014年に設立された。資本金は5000万円。枕崎市や地元の鹿児島銀行、鹿児島信用金庫の協力を受け、3億円をかけてフランスに工場を建設、17年から本格的に販売を開始した。
製品は本枯節とはいかないが、一般的な荒節(あらぶし)で、薄削り、厚削り、糸削りの3種類を販売している。厚削りはだし用、薄削りはだしおよびトッピング用、糸削りはトッピング用だ。
日本食材問屋を通じてフランスを中心にドイツ、オランダ、イタリア、スペイン、イギリスなどの和食レストラン、居酒屋、ラーメン店などの飲食店やスーパーに納めている。近年ではヨーロッパの食材問屋も扱い始め、フレンチのレストランでも使われるようになってきた。
地元ブルターニュ地方ではレストランやスーパーなどに直販もしており、健康食品として認知されるようになってきた。家庭料理のスープやガレット(そば粉で作るクレープ風の郷土料理)にも使われている。
協同組合長の西村協(66歳)は強く訴える。
「EUで鰹節づくりを産業にしなければなりません。それは市場を拡大したいというより、和食を守るためです。これまで鰹節業界や省庁にも海外における和食の危機を訴えてきたが、誰も真剣に耳を貸してくれませんでした。だから、私たちが動くしかなかったのです」