藤井氏は、ゴールやロールの共有は、生産性を上げるための情報共有だけでなく、企業文化を共有する側面においても大切だという。

「ゴール、ロールとともに、会社の本当の存在目的『パーパス』を共有する意味でも明文化は重要だ。長く会社にいると、その会社が何のために存在しているのかは、なかなか会話されなくなっていく。新しい人が次々と参入するような状況では、これらを繰り返し共有することに意味がある」(藤井氏)

 overflowでは、ドキュメントの書き方やオンボーディングのチェックリストなど、ドキュメントの内容を都度アップデートして、改善するようにしているという。

「プロジェクトを進めるには、背景と課題、目的、ネクストアクションの四つの要素が必要。それをNotionで定型のテンプレートにしてしまい、プロジェクトを進行するときには、そのテンプレートへ書き込めばよい状態にするなど、効率化を図っている」(鈴木氏)

社内コミュニケーションは濃密に
顧客接点もオンラインが一般化

 overflowがオフィスをなくしたこと、仕事のやり方をオンラインへ最適化したことについて、社内からはどのような反響があったのか。

 鈴木氏は「昨年4月の時点では、コロナへの危機感が高かったこともあって、特に抵抗はなく、ポジティブな意見が多かった」と振り返る。

 そして、会社の機能面に加えて企業カルチャーの形成についても、さまざまな形で進化させようと試みている。

 月1回全社で集まるミーティング「ALLHANDS(オールハンズ)」は現在、原則としてオンラインで実施されているが、昨年のコロナ感染拡大が落ち着いていた期間には、レンタルスペースを借り、オフラインでの開催を一時的に復活させていた。オールハンズでは全社のトピックや各部門と個人から事業の進捗についての報告が行われる。オフラインでの開催では、報告の後、ケータリングの食事を楽しんだり、ボードゲームなどが行われたりして、久々の対面での雑談にも花が咲いたそうだ。

 こうした特別な機会だけでなく、日々のオンラインでの雑談についてもで工夫が凝らされている。Slack上には、一人一人に自分のつぶやきを残せる専用チャンネルが設けられている。これはSlackを使うエンジニアたちの間で広がる日報ならぬ「分報」、「times」と呼ばれる文化をもとにしたもの。「今日は何を食べた」「整体に行ったら体がスッキリした」など、誰でも好きなときに“独り言"をつぶやくことができる。時にはその独り言に誰かが反応して会話が始まることもある。リアルなオフィスではよくある雑談の光景だが、それがオンラインで再現されている。

 Slack上には趣味のチャンネルも設けられており、読書やグルメ、ゲーム、スポーツやサウナなど、さまざまなジャンルで雑談によるコミュニケーションを図ることもできる。また週1回のペースで、「シャッフルランチ」も導入。オンラインで、普段は話さないような業種を超えたメンバーとのランチの機会を設けている。

 鈴木氏は「毎日顔を合わせていると『また今度誘えばいいや』となるところが、会う頻度が減ったことで、コミュニケーションの濃密さが増え、より大切な時間になっている」と語る。