筆者がかつてよく耳にしたオフコースの「夏の終り」という曲は、「夏は冬に憧れて 冬は夏に帰りたい」という歌い出しから始まっていた。カメラの世界でも、メーカーとユーザーは、ピントと露出が適正で美しい写真が撮れる製品を追い求め、デジタルカメラ誕生後は、フィルムの現像が不要で、瞬時に撮影結果を確認できるその即時性を称賛したはずだった。ところが今、「トイカメラ」的な画質で、撮った写真を翌日まで見られない不便なカメラアプリが注目されるという、逆転現象が起こっている。今回は、その中心的存在の「Dispo」と、レトロな雰囲気を持つ似たアプリの世界を紹介しよう。(テクノロジーライター 大谷和利)
翌朝の9時にならないと
写真を見ることができない?
人気YouTuberが開発したカメラアプリ、「Dispo」(ディスポ)が話題だ。
撮影機能が中心のVer.1.0のリリース自体は2019年末だったが、今年に入ってSNS機能などを追加したVer.2.0のベータ版がリリースされ、それが招待制だったこともあって米国のアーリーアダプター層を中心に爆発的な速さで世界中に広まり、日本でも2月以降にその人気に火がついた。
一時は、利用希望者が「Testflight」(アプリのベータ版を利用するためのアップルの仕組み)の登録人数の上限である1万人を超えたことで、招待を受けても利用することができないという事態まで招いたほどだった。
しかし、Ver.2.0の正式リリース以降は、誰でもアップストアから自由にダウンロードして利用することができるようになり、撮影した写真の「フィルムロール」(後述)を他のDispoユーザーと共有する際にのみ、相手を招待する仕組みになっている。
さて、そんなDispoの最大の特徴は、撮影した写真がその場では確認できず、翌朝の9時にならないと写真を見られないことだ。これは、かつて「レンズ付きカメラ」と呼ばれていた、使い切りタイプのリーズナブルなフィルムカメラの使い勝手にヒントを得ている。