最強の節税#21Photo:PIXTA

「所得税の基礎控除は一律38万円」。これが従来の年末調整や確定申告の「常識」でした。しかし2020年分からの変更で複雑化し、多額の退職金を手にした人が、知らぬ間に納税の申告漏れになったり、過剰に還付されたりする恐れが出てきました。何も考えずに確定申告をすると、思わぬミスをするかもしれません。特集『最強の節税』(全22回)の#21では、「うっかり申告漏れ」を起こさないために何に注意すれば良いのか解説します。(税理士 鈴木まゆ子)

基礎控除が「一律38万円」から「変動制」で
多くの人に影響が出る理由

 所得税の基礎控除――。それは、確定申告や年末調整で所得税額の計算をする場合に、総所得金額などから差し引くことができ、誰でも使えて一律に適用されるお得で分かりやすい控除でした。

「でした」と過去形を使ったのは、2020年にこの基礎控除に関する大きな変更があったからです。この変更は今後、多くの人に大きなインパクトを与えるかもしれません。

 長年、基礎控除は、「誰でも一律38万円」でした。しかし18年度の税制改正で20年以降、控除額は下表のように変わりました。合計所得金額が2400万円以下の層は、基礎控除が前より10万円増える一方、それを超えると段階的に減少し、2500万円超で控除額は0円になります。

 2400万円もの所得を稼げる人はそういません。大企業の役員級や外資系企業の社員か中小企業の経営者、一部の士業くらいでしょう。多くの人が「年収1000万円」の大台超えを夢見ることを考えると、「基礎控除の改正は大勢に影響なし」と思えるかもしれません。

 しかし実は、この変更の影響を被り、納税の「うっかり申告漏れ」という落とし穴にはまる危険なタイミングがあります。それは、退職したときです。たとえ給与所得が2400万円以下の人でも、多額の退職金を手にしたときの確定申告を侮ると痛い目に遭います。