マスターズで優勝した松山英樹選手(右から2人目)を囲む(左から)飯田光輝コーチ、早藤将太キャディー、目澤秀憲コーチマスターズで優勝した松山英樹選手(右から2人目)を囲む「チーム松山」。(左から)飯田光輝トレーナー、専属キャディの早藤将太氏、ボブ・ターナー氏、目澤秀憲コーチ Photo:AP/AFLO

10度目の挑戦にして、初めてマスターズの頂点に立った29歳の松山英樹が、日本ゴルフ界が長く夢見てきた光景を具現化させた。全米オープン、全米プロ、全英オープンを含めた4大メジャーを日本人男子選手が初めて制する偉業達成の舞台裏には、松山のメンタル面を変えた、決して小さくはない変化があった。(ノンフィクションライター 藤江直人)

「波風立たない」と振り返った松山
今までコーチ不在だったのに、なぜ?

 男子ゴルフの海外メジャーで最も権威のあるトーナメントを日本人選手が制し、勝者に贈られる伝統のグリーンジャケットに袖を通す――。日本だけでなくアジア、そして世界のゴルフ界の歴史を変えた4日間だった。聖地オーガスタで松山英樹が残した言葉の数々を振り返ると、とりわけ印象深いものがあった。

「この3日間、あまり波を立てることなく、怒らずにできました」

 1イーグル、5バーディーを奪い、10度目のマスターズ挑戦で自己最高スコアとなる「65」をマーク。2位グループに4打差をつけて単独首位に立った、日本時間11日未明の3日目を終えた直後に、松山はこう語っている。初日から波風を立てない状態で推移してきたのは、彼のメンタルだった。

 ゴルフはメンタルのスポーツだとよく言われる。ハイレベルになるほど、結果がメンタルに左右されやすくなるからだ。今回、松山が心穏やかな状態でプレーできた要因は、一体何なのか。前回までのマスターズと異なる点を探っていくと、昨年末にチームに加わった一人の男性コーチの存在に行き着く。

 アメリカ女子ツアーを主戦場とする河本結を指導する、目澤秀憲コーチとコーチ契約を結んだとの一報は、ゴルフ界に大きな驚きをもって受け止められた。

 東北福祉大学在学中の2013年4月にプロへ転向した松山は、これまで特定のコーチを付けることなく、世界を相手に戦ってきたからだ。

 今シーズンに臨むにあたって、松山はなぜ方針を変えたのか。目澤コーチを迎え入れた理由を紐解く前に、彼が何者なのかを知っておく必要があるだろう。