高田 私は、目標を立てることをあまりしません。経営者として、少し前までは、長期の経営目標として「10年計画」というのは当たり前でしたが、いまや3年でも長期といわれるほど、時代の変化は加速しています。

 ICT化、グローバル化などで世の中が急速に変わっていくときに、何かに取り組んで1カ月もすれば、もう周りも自分も変わっていますよね。今が未来を作るのだから、つまるところ、今がんばらなくては、よい明日も未来もないのです。逆に言えば、今をしっかり考えてがんばっていればよい明日は来るし、未来もあります。

 世阿弥が『風姿花伝』を書いたのは能楽師にその思想を残すためですね。猿楽からはじまり、有力者にも気に入られて、一般大衆にも人気が出てきたときに、競争も激しくなって、どうしたら自分たちの芸能を残していけるか、能の世界を100年、200年残すにはどうすればいいかを考えていたのでしょう。そのときにやはり「初心」、つまり今という時間軸が重要で、目標としてこうなりたいということはあるとしても、今この瞬間をがんばっていくことしかないのではないか。

 私自身、成長したいという気持ちに限度がないんですよね。ここまでできたから満足、70歳だからもういいや、だなんて全然思えない。80でも100でももっとがんばろう、まだ先があると思わないと人生は面白くないのではないか。そう思えなくなったら終わりだ、と。

 人の命には限界があるが、能には限界がないと世阿弥は言っています(命には終あり 能には果あるべからず(『花鏡』より))。そこにつながっていけたらいいなと思っています。

(構成/ライター 奥田由意)

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