日本とアメリカの
対中姿勢の違い

 アメリカの対中強硬姿勢は、2016年に蔡英文氏が台湾総統選に圧勝したとき、トランプ大統領が蔡氏を「台湾のプレジデント(大統領)」と表現して祝辞を送り、電話会談まで実施したことから始まっている。トランプ政権は「一つの中国」をあからさまに否定していないものの、それを無視するような行動を繰り返してきた。言い換えると、トランプ政権はオバマ政権のスタンスを変更して、中国に対抗する姿勢を明確に見せたと言っていいだろう。

 だが、台湾は中国にあまりに近く、経済力・軍事力で圧倒的に劣勢に立たされている。また、経済において中国と密接に関係しているだけでなく、台湾内での親中派の力はかなり強い。中国の強い軍事的圧力を受けながらも、あからさまに中国と敵対できない立場にある。

 トランプ大統領はこうした台湾の立場を尊重しながらも、2018年に事実上の領事館である米国在台協会の新庁舎を完成、同年にアメリカ政治当局の台湾での会談を可能にする台湾旅行法が成立する一方で、地対空ミサイルなど先端兵器の売却を決めるなど、米台関係を着実に強めてきた。バイデン政権の外交の要であるブリンケン国務長官もその点は評価しており、東アジアにおいてはトランプ外交を継承している。

 それに対して、前述したように、日本は安倍政権になっても台湾へのスタンスは根本的には変わらなかった。それは政権中枢に親中派の二階俊博幹事長が、大きな影響力を持ち続けていることからも明らかだ。日本企業も中国経済に大きく依存していることから、中国との太いパイプがある二階氏が必要とされており、いきおい二階氏をはじめとする親中派の影響力は大きかったのである。

 日本はアメリカの意向を酌みながらも、台湾同様、中国とまともに敵対はできない立場にあった。その難しい状況を安倍晋三首相は対中包囲網であるTPPやインド太平洋構想を実現させる一方で、あからさまに中国とは敵対しないで巧妙に乗り切った。

 菅首相は「安倍政権の継承」をうたっていたものの、中国に対してどういう方針で臨むつもりなのかは明確ではなかった。二階氏は引き続き中枢に残っていることから、従来と同じようなベクトルで臨むというのが、最も考えられるシナリオだった。