競走馬には、一頭一頭にその馬ならではの個性やキャラクターがある。ただ、相手が馬だけに、馬自身が何を考えているのか、言葉や気持ちを聞くことはできない。

たとえば、競馬ではしばしば名勝負を繰り広げるライバル関係が生まれるが、実際にその馬同士がお互いをライバルと思っているかは何とも言えない。競馬には、馬たちの個性や魅力的なストーリーがありつつも、どうしても穴埋めできない、いわば、人間が知り得ない「余白」があった。
 
 それが競馬の良さではあるが、ウマ娘は擬人化によって「余白」を創作しながら埋めたと言える。元々あった馬たちの個性やストーリーを題材にしつつ、創作で物語をつなげる。しかも、本当の競走馬ではなく、あくまで擬人化したウマ娘のストーリーであれば、大胆な創作で余白を穴埋めしても、ファンの抵抗は薄れる。それが特徴なのではないだろうか。
 
 過去にヒットした擬人化ゲームも、やはり余白の部分が見受けられる。日本刀や艦艇は数多くの伝説や逸話があり、ストーリーや個性の材料は整っている。一方、歴史が古いゆえに、真偽不明の逸話や一部記録が残っていないなどの「余白」もある。いずれの擬人化ゲームも、題材にあるストーリーや個性は生かしつつ、分からない余白を創作で埋めて、より魅力的にしている。この点が共通しているのではないだろうか。

競馬界最大の悲劇を描き
ウマ娘の方向性が固まっていく

 さらに、この余白を利用して現実になかった新ストーリーを付加することができる。たとえばナイスネイチャなら、現実ではブロンズコレクターで終わってしまったが、ゲームでは自信がなく脇役止まりのウマ娘を主役の座に成長させる物語に変えている。ウマ娘・ナイスネイチャのトレーナーとなったプレーヤーが、一緒に1着を目指していくストーリーになっているのだ。 
 
 なお、スマホゲームのウマ娘が配信されたのは最近だが、当初は2018年冬の配信を予定していた。同年にアニメの放映も開始し、クロスメディアコンテンツとしてプロジェクトがスタートした。しかしゲーム配信は延期が続き、ようやく2021年に配信となったという。

 一方、ウマ娘のアニメはすでにシーズン2まで放映が終わっており、ここでも現実の競馬ストーリーの「余白」を埋めるエピソードが話題になった。
 
 そのエピソードとは、サイレンススズカにまつわる物語だ。