子どもが欲しい気持ち、最初はあった

 ハヤトさんは子どもを持つことに比較的前向きだった。育休も取れる。ただ、サキさんの気持ちは揺れていた。

「夫は、子どものいる生活にあこがれもあるみたいです。引っ越しをして、広い家に住むようになったことで、『これなら子どもが生まれても大丈夫かも』と気持ちの余裕も生まれたみたいです。

 私はゆるい妊活をしているときはありましたが、今はそんなに欲しいとは思っていないですね。というのも、10代後半ぐらいのときから、気分の波や不眠があるので産後のことが不安。

 心身ともに健康な人でも揺らぐのにもともと不安定な私だったらどうなっちゃうんだろう、と。夫はすごくいろいろと気遣ってくれる人だし、なんなら産む以外何もしなくていい、というぐらいサポートしてくれると思います。それに、近所に家族が住んでいるので周りの人が助けてくれるのは分かっているんですけど、やはり『妊娠して産むのは私じゃん』という気持ちがある。それでつらくなるのは私自身だし、誰にも代わってもらえない。正直、怖いんです」

 サキさんは子どもが嫌いというわけではない。むしろ好きだという。それだけに、「新しい命に責任を持てない」と思ってしまうのだという。

今の世の中で子どもを産んでいいのだろうか

 個人的な事情以外にも理由がある。サキさんは、今の社会に対して少し恐れを持っているという。

「私は若い頃は生まれつききゃしゃで弱そうに見えるせいか、嫌な目にもたくさん遭ってきたんです。おかげで警戒心が強くなりました。

 ネットに毒されすぎかな?と自分でも思っているんですけど、ベビーカーを押していて嫌がらせを受けたというような話を見かけると、攻撃対象として見られる可能性があるのがすごく怖いです。自分ひとりでも警戒しながら生きているのに、第三者から悪意を向けられたときに子どもを抱えてうまく逃げられるか、子どもをちゃんと守れるかどうか、という点でも自信がないです」

 ベビーカーを押していて舌打ちされた、電車に乗るなと言われた、子連れでなくても女性にだけぶつかっていく「タックル男」がいることもネット上で拡散された動画で明らかになった。性犯罪は女性も男性も被害に遭うが、被害に遭う確率でいえばやはり女性のほうが高い。「弱そうに見える女性」を狙ってストレスを発散しようとする輩もいるのだ。