疑惑が浮上した後に口裏合わせなどの証拠隠滅工作をしたのも、議員辞職をせず公判で克行氏の主張に沿うよう全面否認を続けたのも、夫を守るためだったのだろう。案里氏も完全に外堀が埋まった状況で、無罪になる可能性があると思うほど無分別ではないはずだ。

 特捜部の捜査が佳境に入り、もう克行氏の逮捕・起訴は揺るがないという雰囲気を感じたところで議員辞職していれば、「社会的制裁を受けた」として不起訴だった可能性がある。有罪判決による「当選無効」(議員としての経歴抹消)ではなく、元国会議員という肩書は一生残り、ネットなどでここまでひどく「歳費泥棒」などという汚名を着せられることはなかったのではないか。

 夫妻の事件は「克行氏の暴走」「案里氏はとばっちり」という見方もできるのではないだろうか。

買収資金2億5000万円
史上空前の金権選挙

 実は河井夫妻のように、国会議員本人が立件されたケースというのはそれほど多くない。

 古いところでは、1979年の衆院選旧千葉2区で再選した宇野亨氏(故人)の選挙違反事件がある。2億5000万円の買収資金が用意され、逮捕者は300人以上。現在も「史上空前の金権選挙」と伝説になっている。

 84年に最高裁で懲役4年の実刑判決が確定したが、持病のため入院し、検察側も収監見送りと刑の執行停止を決定。結局、恩赦で刑に服すことはなかった。

 98年には中島洋次郎衆院議員(当時、故人)が96年衆院選で、後援会幹部らに買収資金などとして現金計2000万円を配ったとして、公選法違反などの疑いで逮捕・起訴された。東京地裁で懲役2年6月、追徴金1000万円の、高裁では懲役2年、追徴金1000万円の実刑判決が言い渡された。

 もっとも公選法違反だけではなく、受託収賄、詐欺、政党助成法違反、政治資金規正法違反の罪でも起訴されており、これで執行猶予になるわけがない。最高裁に上告したが、最終結審前の01年1月、自宅で自殺した。