「あの時ああしておけば」は呪いの言葉

後閑:以前、西先生がネットニュースに書かれていた「あの時ああしておけばは呪いの言葉」という記事がすごく共感できました。

西:亡くなられた後とか、病気が引き返せないようなところまで来た時に、まわりが「あの時ああしておけばよかったね」と過去を否定することに目を向けるよりも、未来を見据えてこれからどうするか、本人の思いを忘れないといった、未来に向けた視点をもって関わる、悲しみを否定しない、といったことが残された人たちのよりよい人生につながると思うんです。

後閑:あの時は結果がわからない中で、あの時に最善と思われることをしてきたはずなんですよね。今現在、思ったような結果になってないというならば、それは医療のせいや誰かのせいではなく、病気や老化のほうが一枚も二枚も上手だっただけで、その時はその時に精一杯のことをしたんだって思ってほしいですね。先生は、「なぜあの時ああしておけばと思うのには原因が2つあって、それはマウンティングと無力感だ」と書いていましたよね。確かにそうだと思いました。今は結果がわかっているから、あの時ああしておけばって言えるわけで、自分だったらこうしたのに、自分のほうがいい治療を知っている、というマウンティングをしているっていうのと、本当に助けたかったという無力感から「あの時ああしておけば」と言ってしまう、と。

西:自分の親が病気になったら、僕は医者だから、「どうしたらいいと思う?」と意見を求められますけど、主治医の先生はなんて言ってるの? って聞きますね。親は北海道なんで、僕はこういう治療をしてほしいと言っても届かないし、邪魔なだけです。まず主治医の先生のことを信頼して、仮にちょっとそれは僕の考えとは違うと思ったとしても、その先生のことを親が信頼してるなら、「先生がそう言っているなら僕もそれがいいと思う」って後押しします。「僕も主治医の先生を信頼します。だからよろしくお願いします」としたいと思っています。じゃないと、あまりいいことがない。

後閑:外野がガヤガヤ言うんじゃなくて、当人同士に信頼関係があるのなら、もっとああしておけばよかったんじゃないのと言うより、後押ししてくれたほうが本人のためにも家族のためにもいいですよね。家族に対して、「いい悲しみ方」のアドバイスがあれば教えてもらえますか。

西:まず、悲しいって感情は悪い感情ではない。悲しいと思った時は、悲しい感情に浸ってもいい。たとえば夜に悲しいと思っても、一晩たてば日常に戻れる。また2日くらいして悲しいとなっても、また日常にという揺り戻しを何回か繰り返していくことで、悲しいと思う時間が短くなっていく。何かのきっかけでふと悲しみが襲ってくることもあるけれど、ああ来たな、その感情は悪いものじゃない、と向き合う。揺り戻しがなくいつまでたっても亡くなった人を思って悲しみ続けてしまうというのなら、専門家に聞いてもらいながら気持ちを昇華していくことです。悲しい時は、悲しんでください。僕が思うのは、子どもが母親が亡くなった時にまったく泣かないほうが不安。「わーん、お母さーん」って泣いてる人のほうが見た目派手だからみんな気にかけたりするんだけど、そのほうがどちらかというと安心で、いい悲しみ方ができているなと思います。優等生っぽい態度の泣かない子どものほうが心配。「悲しんでいいんだよ」ってアプローチしていくことが大事だと思います。

後閑:確かに、悲しいって悪い感情だけじゃない。悲しみの涙の奥には、別れをそれほど悲しめる関係性が築けた「幸せ」が隠されているから。ですから、今の話はすごく共感できました。ありがとうございました。最後に、『「残された時間」を告げるとき』はどんな思いで書かれたんですか。

西:それは医療者向けに書かせていただいた本なんです。巷で行われている余命の告知の方法があまりにも乱暴で、患者さん家族がすごく傷ついている状況があるので、どのように余命を伝えていくことが大事なのかをいろいろな文献や過去の日本人の文化や人類的な視点を取り入れながら書いてみたものです。漫画も入れていますので、漫画の部分だけ読んでも学べることがあるかと思いますから、医療者でない人にもぜひお読みいただければと思います。

後閑:医師向けだと思っていたんですが、読んでみたら看護師や臨床心理士の話も載っていて、看護師には教育者、サポーター、アドボケーター(代弁者)としての役割があると書かれていたりして、これは医師だけでなく看取りに関わるすべての人に読んでほしい本だと思いました。

【まとめ】親を看取る前に知っておいてほしいこと

1.穏やかな最期に着地させるための幸せな死の捉え方

(1)ぬくもりを感じる (2)思い出を語る (3)ありがとうで見送る

2.最善を期待しながら最悪に備える

人生をよりよく生きる選択ができるのが、早期介入の緩和ケアだと知っておく

3.「あの時、ああしておけば」は呪いの言葉

過去を嘆くのではなく、未来志向で「いい悲しみ方」をする