人は自分の死を自覚した時、あるいは死ぬ時に何を思うのか。そして家族は、それにどう対処するのが最善なのか。
16年にわたり医療現場で1000人以上の患者とその家族に関わってきた看護師によって綴られた『後悔しない死の迎え方』は、看護師として患者のさまざまな命の終わりを見つめる中で学んだ、家族など身近な人の死や自分自身の死を意識した時に、それから死の瞬間までを後悔せずに生きるために知っておいてほしいことを伝える一冊です。
「死」は誰にでも訪れるものなのに、日ごろ語られることはあまりありません。そのせいか、いざ死と向き合わざるを得ない時となって、どうすればいいかわからず、うろたえてしまう人が多いのでしょう。
今回は、『後悔しない死の迎え方』の著者で看護師の後閑愛実(ごかんめぐみ)さんと、『「残された時間」を告げるとき』の著者で医師の西智弘(にしともひろ)先生という二人の医療者による対談を収録しました。
看護師、医師という2つの視点から、患者さん、あるいは家族が死とどう向き合っていってほしいかを語ってもらいます。(撮影:永井公作)(こちらは2019年1月9日付け記事を再掲載したものです)
最終目的は「穏やかな最期に着地させること」
正看護師。BLS(一次救命処置)及びACLS(二次救命処置)インストラクター
看取りコミュニケーター
看護師だった母親の影響を受け、幼少時より看護師を目指す。2002年、群馬パース看護短期大学卒業、2003年より看護師として病院勤務を開始する。以来、1000人以上の患者と関わり、さまざまな看取りを経験する中で、どうしたら人は幸せな最期を迎えられるようになるのかを日々考えるようになる。看取ってきた患者から学んだことを生かして、「最期まで笑顔で生ききる生き方をサポートしたい」と2013年より看取りコミュニケーション講師として研修や講演活動を始める。また、穏やかな死のために突然死を防ぎたいという思いからBLSインストラクターの資格を取得後、啓発活動も始め、医療従事者を対象としたACLS講習の講師も務める。現在は病院に非常勤の看護師として勤務しながら、研修、講演、執筆などを行っている。
後閑愛実さん(以下、後閑):私には、どんな最期であったとしても、どんな理不尽な死であったとしても、穏やかな最期に着地させたいという思いがあるんですね。そのために「幸せな死」と捉えてもらえるように、ご家族に次の3つのことをしてもらっています。「ぬくもりを感じること」「思い出を語ること」「ありがとうで見送ること」です。思い出を語って「最期までがんばりましたよね。ありがとうございました」と本人に語りかけるようにすると、家族も自然と「ありがとう」と言えて、穏やかな最期と捉えることができるんです。
西智弘先生(以下、西):僕が最近やっているのは、死亡確認するときに瞳孔の確認はしないってことですね。
後閑:どうしてですか?
西:瞳孔の確認をすると、人相が変わるからです。家族が見ている中で、目をぎゅっと開けて光を当てるのがどうも痛々しい……。基本的なスタンスとしてご遺体を尊重しているんです。日本人の中には、ご遺体といえども、生きている時と同じように接するという感覚があると思っていて、たとえば亡くなった後に身体を拭く時も、水ではなくお湯で拭いたり、場合によってはお風呂に入れてあげたりもするじゃないですか。日本人の感覚としては、まだそこにいるんですよ。心臓が止まる、呼吸が止まるは明らかにわかるわけで、目をぎゅっと開く代わりに、心臓の音をゆっくりと聞くようにしています。ぱっぱっ、と聞いて、「はいご臨終です」ではなく、聴診器を胸に30秒くらい当ていると、しーん、となるんです。その静寂を感じてもらったところで、「何時何分、ご臨終を確認させてもらいました」としています。厳粛で静寂な雰囲気を医師が作り、それを崩していくように看護師に感情的な部分を担当してもらえるといいと思っています。
腫瘍内科医、緩和ケア医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医
川崎市立井田病院かわさき総合ケアセンター腫瘍内科/緩和ケア内科
2005年北海道大学卒。室蘭日鋼記念病院で家庭医療を中心に初期研修後、川崎市立井田病院で総合内科/緩和ケアを研修。その後2009年から栃木県立がんセンターにて腫瘍内科を研修。2012年から現職。現在、腫瘍内科の業務を中心に、緩和ケアチーム、在宅医療にも関わる。著書に『社会的処方:孤立という病を地域のつながりで治す方法』(学芸出版社)、『だから、もう眠らせてほしい 安楽死と緩和ケアを巡る、私たちの物語』(晶文社)などがある。
後閑:その患者さんとは初めましての当直医に「カルテを見させてもらいましたが、この方はこういう人でしたね」とかいう感情的な部分を口にされると、「この先生、何がわかってるんだろう」と思うことがあります。西先生が言ってくださったように、医師は厳粛な感じで場を鎮めて、それを看護師が崩していくスタンスのほうが私もいいと思います。
西:医師が看護師の役割を奪っちゃダメで、そこはまかせるようにしています。緩和ケアの領域において、医者が前面に出ていって、俺が俺が、とやると、不自然なことが多い。緩和ケアや看取りの現場では、家族や本人の力というところをよりうまく支えていくということのほうが医師には重要です。