医療人材をひっぺがす五輪
ワクチン接種は「机上のプラン」

 組織委は、500人の看護師派遣を日本看護師協会に依頼した。ボランティアとして、選手村の発熱外来などで働いてもらうのだという。医師も日に400人が必要とされている。

 だが、医療が逼迫している時、どうやって人繰りをつけるのか。五輪に割かれる人材が医療現場に更なる負担を押し付けるのは明らかだ。

 一方で、コロナ対策で唯一希望とされるワクチン情報は、意図的と思えるほど楽観的だ。

 根拠のない見通しを意識的に流し、一種の世論誘導をしている。

 医療関係者のワクチン接種は3月中に終え、高齢者は4月から始めて6月までに、その後、特定の疾病のある人が接種し、一般への提供も7月中に可能などと、机上のプランがあたかも実現するかのように喧伝(けんでん)されている。

 プラン通り進めばオリンピック前に接種は山を超え、多くの人は免疫を獲得し、ひと安心となっているだろう。それなら東京五輪は大丈夫か、と多くの人は思いたくなる。

 だが、そうはならない現実が見えてきている。

 4月から始まった高齢者の接種はまだ対象者の1%にも満たない(27日現在)。それどころか、医療関係者の接種もまだ終わっておらず、ワクチン接種をできていない医師が接種に訪れる人に対応している。

 自民党内部からは「ワクチン接種が完了するのは、来年になってから」などの声も出ている。

 担当の河野太郎行革相は「首相が自ら交渉しファイザー社から追加供給のめどが立った。国民全てが接種できる数量が確保された」と言うが、現場にいつ届くのか。円滑な接種が行われる体制を自治体が取れるのか、疑わしい。

 現実に、接種の始まった自治体ではワクチン接種券が届いても予約の電話がつながらない混乱が起きている。医療は物流だけでは解決しない。

 政府は、自衛隊に出動を要請し、東京などで医官・看護官が大規模会場で接種に当たることをあわてて決めた。東京五輪を前に「背水の陣」ということだろう。