ユリアン・原・ニルセンさんイノベーション・ラボ・アジア主任コンサルタントのユリアン・原・ニルセンさん

「北欧諸国は政治的にも安定しており、社会の透明性、行政のデジタル化、SDGs達成度などの指標で常に世界のトップレベルにランクインしています。また、ユーザーの視点に立ったイノベーションを大切にしているのも北欧の特徴の一つといえるでしょう。優れた技術があっても、ユーザーに効果的に使われていなければ意味はありませんから」とニルセンさん。

 さらに産官学民の連携や、国を超えた街同士の連携も進んでおり、ユーザーの視点に立ったビジネスをしやすい環境が多角的に整備されている。

 イノベーション・ラボ・アジアでは、アジアのどの国が北欧とマッチするかをリサーチし、日本との相性が良いという結果を得られたという。

「少子高齢化など共通の課題も多く、北欧のソリューションは日本でも有効だと思います。北欧は規模が小さいので日本のような大国と連携することで、よりグローバルな成長が期待できます。イノベーション・ラボ・アジアは北欧のスタートアップを日本に紹介することを行ってきましたが、今後は日本を北欧に紹介するという関係性も強化していきたいですね」(ニルセンさん)

欧州各国のエコシステムは横並び
文化や習慣への理解が重要

 出資や協業など、日本とヨーロッパのスタートアップの関係性は今後もより深まりそうだが、留意すべき点はあるのだろうか。前出のジェトロ・ロンドン事務所の雪田さんは次のように語る。

「欧州各国のエコシステムは平準化しており、どの国も『自分たちのエコシステムは素晴らしい』『さまざまな分野のスタートアップが存在する』とアピールします」

 各国とも制度としては整備されており、政府の支援策、インセンティブ、アクセラレーターや有力イベントの存在などに大差はない。

「逆に、横並びで特徴がわかりにくいともいえるので、長所だけでなく短所も見極めたうえで判断することが重要でしょう」(雪田さん)

 また、最初から相手国を決める必要はなく、政治的・経済的安定性、準拠法の言語、人材や情報の豊富さなどの選択基準から、自分たちが求める条件にもっともマッチしたエリアを絞り込んでいくのがベターだとも語る。

 意外にも言葉の壁というのはそれほど大きな問題ではなく、それよりもビジネスカルチャーの違いの方が障壁になりやすい。

「例えば協業相手を探す場合、日本側は『とりあえずリサーチ』と思っていても、欧米の企業は最初の段階から『協業でどんなメリットが生まれるのか』など、かなり突っ込んだことを聞いてくる傾向があります」(雪田さん)

 ビジネスのスピード感の違いは、グローバル展開を進める上でよく取りざたされることだ。溝を埋めるためには、相手国の文化や習慣を理解し調整していくことが重要だ。