1926年に米国シカゴで創立された世界有数の戦略系経営コンサルティング会社、A.T.カーニー。同社史上最年少で日本代表に就任した関灘茂氏と対談するのは、「お金の課題をテクノロジーで解決する」「すべての人のお金のプラットホームになる」ことを掲げて2012年にマネーフォワードを創業、国内を代表するフィンテック企業にまで成長させた辻庸介氏だ。今回は、辻氏が起業したきっかけや資金調達に至る苦労など、マネーフォワード設立までの経緯を聞いた。(構成/ダイヤモンド社 編集委員 長谷川幸光)
アイデアなんて
誰でも考えることができる
A.T.カーニー日本代表 関灘茂氏(以下、関灘) 辻さんは「お金を前へ。人生をもっと前へ。」というミッションを掲げ、2012年にマネーフォワードを起業しました。起業から現在の900人規模の会社に成長するまでにさまざまなご苦労があったかと思います。起業のきっかけは何だったのでしょうか?
マネーフォワード代表 辻庸介氏(以下、辻) 33歳の時にMBA取得のためアメリカの大学(ペンシルバニア大学ウォートン校)に留学したのですが、その頃の日本は政権交代もあり、政治が大混乱に陥っていた時期で、2011年には東日本大震災が起こりました。
日本はどうなってしまうのか?日本全体が沈んでいってしまうのではないか?という状況の中で、日本人が皆、将来に対する不安が大きくなっていました。お金に関しても「高齢化社会の中で自分はお金は足りるのか?」「今、何をすればいいのか?」と不安が募るばかり。そのような時に「こうした課題を解決するサービスがあればいいのに」と思ったんです。
当時、銀行などの金融機関は、今のようにネットバンキングも普及していなかったため、営業時間の9時から15時までしか利用できない、ユーザーサイドのサービスもほとんどない。お金って人生においてすごく大事なファクターなのに、なぜ、いいサービスがないのだろうと疑問に思い、最初に設立したのが「マネーブック」という会社です。
関灘 それはどういった会社だったのですか?
辻 「お金に関する課題ってどうやって解決するの?」と考えた時に、金融に関する教育の重要性を感じたのですが、日本はなかなか金融教育の場がありません。また、勉強というのは非常に時間がかかる。そこをテクノロジーで、もう少しうまくやれないかなと考えました。
当時、FacebookやTwitterが世界中に普及していった頃で、皆、わからないことがあると、こうしたソーシャルネットワーク上で、ほかの人の経験談とか意見を参考にしますよね。ああいう感覚で、匿名のユーザーがお金の出入りや資産をシェアしながら、お金についての課題を解決できるようなSNSがあれば金融教育の代わりになるのではないかと思い、(のちにマネーフォワードの共同創業者の1人となる)瀧俊雄とディスカッションしながらアイデアを練っていきました。そして「お金版のFacebookをつくろう」というコンセプトを元に、2012年に設立したのがマネーブックです。
関灘 多くの人は、アイデアを生み出すことと、アイデアを元に実際に起業することとの間には、高いハードルを感じ、起業してもうまく軌道に乗らないということが多くあると思うのですが、辻さんの場合はどうだったのでしょうか?
辻 おっしゃるとおり、アイデアなんて誰でも考えることができます。やはりエグゼキューション(一連の手続きなどを実行および管理すること)が全て。でもそこまで行くのがすごく大変です。