西洋のストーリーはハッピーエンディングの物語、
東洋のストーリーはモラルを教えるための手段

――あなたの著書『ザ・プレゼンテーション』(原題:RESONATE)の本国アメリカでの評判はいかがですか?

 うれしいことに非常によく売れています。出版から2年ほど経ちますが、アマゾン・ドットコムではいまだにトップランキング2000位以内に入っています。

――読者からはどのような反響が?

「この本を読む前と後とで、こんな変化があった!」というお声をよくいただくんです。たとえば、あるセールスパーソンからは「この本に書かれていたとおりの方法でプレゼン資料をつくり直してみたら、1週間で売上げが2倍近くになりました」と報告してくれました。伝え方を変えるだけで、売上げに直結するほどのインパクトがあるということですから、プレゼンが担う役割がどれほど重要かがわかると思います。

 ある社会起業家の方も、プレゼンのしかたを変えたことで注目度がぐんと上がったと教えてくれました。

――文化の違いによってプレゼンのしかたも異なりますか?

 一般的に、西洋人はギリシャ由来のマインドセットを持っています。つまり、直線的なストーリーになじみがあるんですね。最初があり、真ん中に盛り上がりがあって、エンディングに行きつくというふうに。ハッピーエンディングが好きで、好ましい結末で終わるように物語が進んでいく筋書きが好まれます。

 これに対してアジアなどでは、モラル(道徳)を教えるためによくストーリーが使われます。「あれをしてはいけない」「これをしなさい」という具合です。結末は必ずしもハッピーではありません。

 ストーリーの使われ方が異なれば当然、プレゼンのしかたやストーリーテリングの方法も変わってくるでしょうね。

――本の中でもストーリーテリングについて詳しく述べていますね。

 聴いていて心に響かないプレゼンの多くは、事実を並べているだけです。「物語」がないままに事実を並べるだけでは、単なるレポートにすぎません。聴衆の心に響くメッセージを届け、彼らにいままでとは異なるアクションを起こしてほしいなら、事実だけ並べるだけではダメで、「事実」と「ストーリー」をうまくミックスさせなければいけません。

フェイスブック、グーグル、アル・ゴア氏……<br />世界のオピニオンリーダーを陰で支える<br />「プレゼンの達人」の仕事術シリコンバレーにあるデュアルテ・デザイン社のラウンジにて。思いついたアイデアをメモ書きできるホワイトボード付きラウンドテーブルなど、オフィスの中はユニークな仕掛けが満載だ。

 さらに気をつけてほしいのは、「聴衆が誰か」を考えることです。生化学者を相手に話しているのに情感豊かなストーリーばかり語るのは禁物です。もちろん、話の脈絡としてストーリーは必要ですが、彼らはあくまでもデータを聴きにきているのですから、ストーリーは最小限に抑えるべきでしょう。

 逆に、聴き手がセールスパーソンならば、データの羅列ではなくストーリーを多めにすべきでしょうね。情緒的アピールを盛り込むことで、聴き手の気持ちを乗せて、その気にさせる必要があるでしょう。

 人によっては「プレゼンに情緒は不要だ」と言う人もいるようですが、聴衆だって人間ですから、適切な情緒的要素はやはり必要だと私は思います。