数々の功績を残したトップリーダーたちは、リーダーを目指す過程やネクストリーダーに就任した際、何を考え、どう行動したのか。連載第4回では、ベイシアグループ創業家から「第3の創業」のフェーズで社長を引き継ぎ、改革を進めて大きな成果を上げているカインズの高家正行社長に話を聞く。企業が成長する最大のカギは「成功体験」だが、同時に企業改革を阻む最大の壁にもなりうる。それにもかかわらず、1989年の創業時から増収増益を続けている同社が、デジタルトランスフォーメーション(DX)を含む全社改革を実行し、さらなる飛躍を遂げられているのには、どのような理由があるのか。
ベイシアグループ各社が独自戦略
「ハリネズミ経営」で成長
2019年3月、ベイシアグループ創業家の2代目土屋裕雅(現・カインズ会長)から、カインズ社長を引き継ぎました。そして2020年2月期には、それまでの取り組みと蓄積されてきた資産を背景に、カインズはホームセンター業界で売上高トップになることができました。
カインズの経営の大きな特徴のひとつは、ベイシアグループにありつつ、ホームセンターとしての「CAINZ(カインズ)」というブランドの自主性や創造性を損なうことなく企業活動を行っていることです。
ベイシアグループは、母体である「いせや」の流れをくむスーパーマーケットのベイシア、そこから分社化されたホームセンターのカインズ、作業服のワークマンなどの物販チェーンを中心にした28社で構成されています。ただし、グループの中に持ち株会社(HD)があるわけではありません。グループの頂点にHDがあれば、HDはグループ総和としての企業価値を上げることが最終目標になります。グループの成長戦略と各事業会社が描く独自の成長戦略とベクトルを一致させるにしても、両者のあいだには、時にコンフィリクトが生じます。
それに対してベイシアグループは、それぞれの事業会社が独自の成長戦略を描くことで、個社の総和としてのグループが成長を続けてきました。会長の土屋に言わせれば、それぞれの会社がとがっている「ハリネズミ型のグループ経営」です。
経営理念は「地域格差の解消」から
新しい価値を有した「地域のライフライン」へ
ベイシアグループでは、経営理念として“For the Customers”を掲げ、「チェーンストア・イズ・モア・ディスカウントビジネスに徹する」「地域格差を解消し国民の豊かな生活づくりに貢献する」「人をつくって商で文化を創造する」の3つを理念に、60年以上前の創業時から地域とつながる経営を標榜してきました。これからの時代を考えるうえでは、ますますその原点に回帰した経営をしなければならないと考えています。