トランプの
刑事訴追はあるか

 ただし、その前に(おそらく年内)、トランプが刑事訴追される可能性がないわけではない。なにしろ大統領特権を盾に背任、共謀、職権乱用、司法妨害、脱税、詐欺などやりたい放題だった男だ。しかし今やその特権はない。

 正義感に燃えるニューヨーク州マンハッタン地区主席検事サイラス・ヴァンスはトランプ逮捕・起訴にやる気満々。ニューヨークマフィアのガンビーノ家のボスの息子を有罪にしたことで有名な元連邦検察官マーク・ポメランティスも、捜査チームに加わっている。

 検察の切り札は、長年トランプ一族の忠実な金庫番を務め、誰よりも黒い金の流れを知る最高財務責任者アレン・ワイゼルバーグと、同時多発テロの英雄からトランプの悪徳顧問弁護士に転落したジュリアーニ元ニューヨーク市長だ。

 もし彼らが、トランプのフィクサーでセックススキャンダルもみ消し工作で有罪になったマイケル・コーエン受刑者と同じように司法取引に応じて証言すれば、トランプは窮地に追い込まれるだろう。ワイゼルバーグはすでに検察の捜査に協力の意思を示しているという。ジュリアーニの自宅と事務所には先月末に遂に家宅捜索が入った。

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 だが、トランプはしぶとい。トランプの側にはマフィアの守護神といわれた悪徳弁護士ロイ・コーンが常についていたからだ。嘘とはハッタリで敵を容赦なくたたき潰せる者が最後に勝者となるという処世訓を、トランプは彼から仕込まれた。コーンはすでにこの世を去っているが、トランプは彼から犯罪の痕跡を残さない術を学んでいる。

 例えば、自分の机にはコンピューターを置かず、個人的電子メールアドレスも持たない。メッセージは側近に書かせる。不正行為を指示するときには言質を取られないよう曖昧な言葉を使って自分の意図を部下に忖度(そんたく)させる。日本でも、悪徳政治家やヤクザが使う常套(じょうとう)手段だ。いざとなったら知らんふりをして、責任を他人になすりつけることができる。

 コロナ感染対策と経済再建で手いっぱいのバイデンは、トランプ起訴に対しては消極的だといわれている。捜査の進捗状況によっては、コロナ禍が過ぎ去った後もバイデン政権には「ウィズコロナ」ならぬ「ウィズトランプ」の日々が続くだろう。