その後、会社から突然エージェント契約を解消されて驚いた芸人は、自分たちは相互依存関係の「義理の世界」にいたはずと考えていたであろうし、会社はビジネスライクな契約関係の「他人の世界」にいたと考えていたのだろう。他人ならば、利益が出なければ、契約は正当かつ簡単に解消できる。そして問題は、このような認識ギャップはこれからもさまざまなところで現実化しうるということである。

会社員の「副業」は
人情から他人の世界に出ること

 今後、副業が普及する一般の会社においても、この認識ギャップ問題はついてまわる。新しい知識や人脈の獲得、新しい収入源の獲得でもあり、個人にとっては副業への挑戦のメリットは大きい。会社にとっても社員が成長する良い機会となるので、筆者も手放しに推奨したいところだが、前述のような関係性の3つの同心円を考えて、慎重に自らの位置を認識したほうがよい。

 正社員は、通常、人情(ファミリー)、少なくとも義理(相互扶助)関係の中にあると考えられているはずだ。もし副業なるものが、趣味の延長線上での演奏会の開催や絵の展覧会といったものであれば、なんの問題もない。単なる気晴らしの類であり、社員はこれまで通りのファミリーメンバーや義理の間柄として、認識され続けるであろう。

 しかし、あなたの副業が、仕事で獲得した、たとえばマーケティングの能力やスキルを他社にも提供する内容なら、会社(の中核の人々)が、その行為をどのように受け取るかはわからない。甘えの空間(「人情/義理の世界」)から飛び出し、「他人の世界」に出る行為と考えるかもしれない。副業が増えて「複業」になれば、かなりの確率で「他人の世界」に出たよそものという認識に変わるだろう。

 自分たちに依存しないで生きる人というのは、下手をすると自分たちの仲間ではないと見なされるのだ。そして仲間でない者に(その人が本業のつもりで所属している会社が)もはや重要な仕事を任すことはありえない。本業として所属する会社で、あなたが疎外されたり、重要なポジションから外されたりしても無理はないのである。

 狭量だと思うかもしれないが、これが現実であり、いまだに日本に根強く残る3つの世界の弁別を無視すると、将来大きな痛手を受ける可能性があることは、肝に銘じる必要があるだろう。

(プリンシプル・コンサルティング・グループ株式会社 代表取締役 秋山 進、構成/ライター 奥田由意)