日本企業は2000年代に入り、過剰ストック・債務問題が解決された後もコスト削減を続け、賃金、人的投資を抑制した。その結果、消費は停滞し、国内市場は縮小する連鎖に陥った。旧来のビジネスモデルが通用する海外への依存を高め、利益を上げているものの、生産性は向上していない。この先に見えてくるのは生産性の高さではなく、コストの低さで競争力を維持するしかないジリ貧の姿である(BNPパリバ証券経済調査本部長チーフエコノミスト 河野龍太郎)。
完全雇用期でも十分に上昇しなかった賃金
国内市場は回復せず成長率は低迷
不良債権問題に苦しんだ2000年代前半まで、企業が抱える最大の問題は過剰ストックや過剰債務だった。しかし、それらが解決された後も、数年に一度の経済危機に備えて、企業はもうかってもため込み、それが「日本経済の長期停滞」の原因となってきた。
こうした筆者の主張に対して、「確かに国内投資は抑えられているが、大手企業は海外で積極的に投資を増やし、グローバル展開を進めている。特段問題はない」という反論を企業経営者から頂く。
最近も、「潤沢な現預金を抱えるのは、危機への備えだけではない。海外で魅力的なM&A案件が舞い込んできたときに、機動的に対応するための準備だ」という反論を財界有力者から頂いた。
確かに近年、対外直接投資は大幅に増加している。20年はコロナ危機で若干減少したが、増加基調は崩れていない。早晩、回復トレンドに戻るのだろう。成長の見込めない国内市場に固執するより、高い成長が期待される海外市場に目を向けるのが企業の成長には適切、というのは、妥当なような気もするが、この問題をマクロ経済的にはどう考えれば良いのか。
企業行動に問題はない、と反論する人が多いのも分からないわけではない。国内企業は、危機の度に、リストラに次ぐリストラを続け、もはや財務内容に無駄はなくなっており、これ以上筋肉質とするのは容易ではない。
ただ、景気回復局面でも、そうした支出抑制行動を取ることで、貯蓄と投資のバランスが崩れ、マクロ経済の好循環を阻害しているというのが、筆者の認識でもある。
17~18年の完全雇用期においても、消費回復が緩慢なのは、企業が非正規雇用に依存し続け、賃金も十分に増やさず、従業員の処遇を改善させないためだ。その結果、自己実現的に成長率は低迷し、国内の売り上げは回復しない。それを受け、ますますコストカットに企業が励むという悪循環が続く。