「ドル基軸通貨体制」終わりの始まり、代替の国際金融秩序を模索する動きが顕在化Photo:PIXTA

トランプ関税や対ロ制裁により、ドルを中心とする国際金融システムの正統性に揺らぎが生じている。中国をはじめとする新興国は、既存秩序に代わる多極的通貨体制や新たな国際決済通貨構想を模索している。IMF(国際通貨基金)体制の原点に立ち返るかのように、バンコール構想の復権が注目されつつある。ドル覇権は終わりの始まりに差しかかったのではないか。(BNPパリバ証券経済調査本部長チーフエコノミスト 河野龍太郎)

ドル基軸通貨体制からの
離脱の準備を始める

 トランプ大統領の最優先事項は、トランプ主義のレガシーを残すべく、次期大統領選挙の前哨戦となる26年中間選挙を乗り切ることだ。そのタイミングでの不況は何としても避けたいはずだ。

 それは、2027年からの4期目続投を見据える習近平国家主席にとっても同様で、2026年の景気後退は論外だろう。

 それゆえ、トランプ関税が始まった当初から筆者は、短中期のグローバル経済について、慎重ながらも比較的楽観的な見方を続けてきた。しかし、長期については、あまり楽観的になれない。それは、ドル単一基軸通貨制が揺らいでいるからだ。

 そもそも国際金融システムと貿易体制は分かち難く結びついている。とりわけここ数カ月のトランプ関税ショックを経験し、脅威を受けた国々からすれば、万が一、ドルシステムから排除されるケースを含め、そこから離脱するための準備が検討され始めているはずだ。

 いや、それは今回のトランプショックがきっかけではなく、既に22年2月のウクライナ戦争開始の直後から始まっているはずだ。当時、米国を中心に西側同盟国は、ロシアの在外資産を凍結すると同時に、ロシアの金融機関をSWIFT(国際銀行間通信協会)から追放した。SWIFTそのものはブリュッセルに本拠を置く民間団体だが、米国財務省のOFAC(外国資産管理局)規制の一環で、日本を含む先進国がこれに賛同した。

 ロシアへの制裁を目の当たりにし、中国は15年にスタートしていたCIPS(人民元国際決済システム)の下、万が一に備えて、ドルから独立した送金経路を強化しようとしている。