経済的理由で、自殺しようとする人も救うべき

 が、一方で「人命最優先」だというのなら、先ほども申し上げたように、日本ではコロナの死者の2倍の方が自ら命を絶っており、その中には経済的な理由で死を選ぶ方もかなりいるという、こちらの「甚大な被害」にも目を向けるべきではないか。特にコロナ禍になってからの特徴としては、女性や子どもの自殺も増えているのだ。

 経済の落ち込みとともにこの傾向はさらに強まっている。警視庁によれば、今年4月に自殺した人は速報値で全国で1799人にのぼっており、去年の同じ時期に比べて292人も増えている。特に女性の自殺は37%も増えた。都道府県別でもっとも多いのが東京都で197人だという。ちなみに、今年4月の新型コロナの国内死者数は1067人、東京都の死者数は122人となっている。

 自殺だろうが、コロナだろうが、高齢者だろうが、子どもだろうが、命の重みは変わらない。ならば、コロナによる死者を減らすため、経済活動をストップしたのと同じくらいの覚悟をもって、コロナ禍で増える自殺や、その予備軍となる恐れのある「コロナ経済死」を減らすための取り組みをしなくてはいけないのではないか。

 もちろん、新型コロナは70歳以上を中心に多くの尊い命を奪った恐ろしい感染症だ。「人命最優先」「医療現場を守る」という観点ではいけば、感染者・死亡者0人を目指さなくてはいけないという理屈もわかる。いわゆる、「ゼロコロナ」だ。

 しかし、その一方で現実としては、人口約1億2000万人の日本では毎日、病気や事故で無数の人が亡くなっている。特に高齢化が進んでいる日本では70歳以上の方がコロナが流行する以前から、毎日凄まじい数の方が命を失っていた。

 例えば、「老衰」で年間10万人以上が亡くなっているし、「肺炎」でも例年10万人近くの尊い命が失われる。また、高齢者の方の場合、誤嚥性肺炎も深刻で毎年3万人以上が亡くなっている。コロナ流行で大激減したインフルエンザも年間約3000人が命を落としてきた。

 こういう現実があるからコロナの1万1000人は騒ぎすぎだ、などと言いたいわけではない。しかし、毎年、老衰や肺炎で亡くなる70歳以上がこれだけいることをそれほど問題視していなかったのに、なぜコロナ患者や死亡者の数になると、マスコミをあげて恐怖を煽るのかということは正直、違和感しかない。まるで、肺炎やインフルエンザで亡くなる人と、コロナで亡くなる人の「命の重み」が違うのかと思ってしまうほど、報道の力の入れっぷりが違うのだ

「人命最優先」と言いながら、我々はこの1年の集団パニックに陥ったことで、いつの間にか無意識に「コロナで失われる命」だけを特別待遇にしていないか。それが結果として、「コロナ患者以外の人々」の命を軽んじていることにつながっていないか。

 GDP「戦後最悪の落ち込み」はそんな人命軽視への警鐘のように筆者は感じてしまう。日本政府にはぜひとも、「他の病気で失われる命」や「経済的理由で失われる命」にも光が当たるような、広い視野をもったコロナ対策を期待したい。

(ノンフィクションライター 窪田順生)