着手ポイントを見つける
2つのステップ

 ここで大事なのは、具体的な着手ポイントを見つけることです。

 そのために取り組むべきステップが2つあります。

1.改善したい人(この場合マネジャー)が、自分もその問題の一部であると気づくこと
2.見えてきた状況を掘り下げること

「自分もその問題の一部であると気づく」とは、自分がやっていることと、自分が認識している問題とどう関わりがあるかを発見することです。

 つまり、自分もその問題を生み出すことに貢献している当事者だと「当事者性」を発見することでもあります。

 最初、このマネジャーは、部下に問題があり、部下を変えようとしていました。

 しかし、もしかすると、自分が変えようとして取った行動が余計に問題を悪化させているとしたら、どうやら自分に問題があることがわかります。

 それがわかることだけでも大きな一歩です。

 その行動が持つ意味がわかってくれば、状況を好転させる入口が見えてくるからです。

 部下の管理を強化することで悪化していたなら、一度管理強化をやめてみて何が起きるかを観察してみましょう。

 その代わりに、パフォーマンスを向上する方法を一緒に考えていくと方向性が見えてくるかもしれません。

 しかし、このためには、部下や違う部署の人などを交えた対話の過程が重要です(この方法については、本書で詳しく説明します)。

 この問題を改善するはじめの一歩とは何か、具体的に考えることが大切です。

 たとえば、目標をもう少し手の届く範囲に設定し、うまくいったケース、うまくいかなかったケースなどをみんなで共有しながら議論する場を設けます。

 解約された顧客リストをもとに顧客状況を調べ、その原因を考察してみます。

 こうやっていくと、「状況がよくわかっていないのではないか」と単純化して考えていたときより、問題の全体像が見えてきます。すると、徐々にみんなが見ている風景が違って見えてきます。

 これがセルフケアそのものであり、対話することの意義なのです。

【追伸】「だから、この本。」についても、この本について率直に向き合いました。ぜひご覧いただけたらと思います。

【「だから、この本。」大好評連載】

<第1回> あなたの会社を蝕む6つの「慢性疾患」と「依存症」の知られざる関係
<第2回>【チームの雰囲気をもっと悪くするには?】という“反転の問い”がチームの雰囲気をよくする理由
<第3回> イキイキ・やりがいの対話から変革とイノベーションの対話へ!シビアな時代に生き残る「対話」の力とは?
<第4回> 小さな事件を重大事故にしないできるリーダーの新しい習慣【2 on 2】の対話法

<第5回> 三流リーダーは組織【を】変える、一流リーダーは組織【が】変わる

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体験者が初告白!「私にとって 2 on 2 は、言語化できないモヤモヤの正体が形になって現れた衝撃の体験でした。」

宇田川元一(うだがわ・もとかず)
経営学者/埼玉大学 経済経営系大学院 准教授
1977年、東京都生まれ。2000年、立教大学経済学部卒業。2002年、同大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。2006年、明治大学大学院経営学研究科博士後期課程単位取得。
2006年、早稲田大学アジア太平洋研究センター助手。2007年、長崎大学経済学部講師・准教授。2010年、西南学院大学商学部准教授を経て、2016年より埼玉大学大学院人文社会科学研究科(通称:経済経営系大学院)准教授。
専門は、経営戦略論、組織論。ナラティヴ・アプローチに基づいた企業変革、イノベーション推進、戦略開発の研究を行っている。また、大手製造業やスタートアップ企業のイノベーション推進や企業変革のアドバイザーとして、その実践を支援している。著書に『他者と働く――「わかりあえなさ」から始める組織論』(NewsPicksパブリッシング)がある。
日本の人事部「HRアワード2020」書籍部門最優秀賞受賞(『他者と働く』)。2007年度経営学史学会賞(論文部門奨励賞)受賞。