そうした経験を積むようになり、消費の傾向が変わってきている最中に、ちょうどタイミングよく「盲盒」が登場し、それに新鮮さや魅力を感じて飛びついた人が多かったのではないか、と感じる。中国のEC(電子商取引)では今、「ライブコマース」という動画の生配信が流行しているが、それと同じように、目新しい販売手法に飛びついているのだ。

 二つ目の理由としては、中国のZ世代の若者が、日本同様、オタク化し、こだわりを持つようなライフスタイルに変化してきていることが挙げられる。中国でいわゆる「オタク」が増え始めたのは、筆者の記憶では2010年頃からだ。

 当時、中国の「80后」(バーリンホー)と呼ばれる80年代生まれの若者が、ネットで日本のアニメやドラマを見て夢中になったが、そこから派生して、アニメに関連するグッズなどを収集し始めるようになった。

フリマアプリがあるから
心置きなく「盲盒」を買える

 当時の取材で、ある若者は「同じものがあれば、必ず二つ買う。一つは箱を開けないで、永久保存するため。もう一つは箱を開けて楽しんで使う」と話しており、すでにその頃から、彼らの間にもコレクション癖が表れてきていることが分かる。

 当時はただ自分の楽しみとしてコレクションしているだけにすぎなかったが、2014年頃からSNSが発達し始めると、その情報をネット上で仲間と共有したり、交換したりするようになった。近年は前述したように中古品販売のアプリ(中国で「閑魚」〈シエンユー〉という名称。中国版フリマアプリと呼ばれ、家具や家電、本や衣服など何でも売買される)が発達し、そこを介して物々交換をする人が急増した。

 フリマアプリという、商品を流して循環させる「受け皿」ができたことも、彼らが心置きなく「盲盒」を買える心理に拍車を掛けたのではないかと思われる。生活必需品ではない「盲盒」にお金をつぎ込むことは、40代以上の中国人から見れば「信じられない」行為だが、それも中国の若者のライフスタイルが大きく変化している証拠といえるだろう。

 ほかにも、キャッシュレス化が進み、いつでもどこでも「盲盒」を見つけたら買える状況になっていることや、フィギュアの品質やデザイン性、芸術性が向上し、「小さくてかわいいもの」が増えたこと、何かをコレクションすることで、日常的なストレスの解消になることなども関係しているようだ。

 ポップマートは2020年、すでに日本市場に参入しており、アートトイ・フィギュアメーカーとしてさまざまなメディアで紹介されている。今後、中国で人気のカプセル玩具が日本の若者や他の世代の心を捉える日も近いかもしれない。