これは、ストレスを考える上で非常に重要なポイントです。たとえば、「最近仕事ができるようになったね」と上司に声をかけられて、素直に喜ぶ人と、「じゃあ以前は仕事ができなかったのか…」と落ち込む人がいます。「女性の話は長い」と言われて傷つく女性もいれば、「女性のほうがものをよく考えるんだから、話が長くなるのは当然でしょ」と余裕しゃくしゃくの人もいます。

 ストレスの発生の9割は、その人がどんなスキーマ(刷り込み、思い込み)を持っているかで決まります。他人の目にはほんの小さなストレッサーでも、当人の解釈しだいで、うつ病を引き起こすほどのストレスが生じることもあるのですから。

 もちろん、個人それぞれの「解釈の仕方」とは無関係に、どんな人にも大きなストレスを与えるストレッサーもあります。例えば、「トラウマ」と呼ばれるものは、耐え難いストレスを与える強烈なストレッサーが原因で生じます。戦争体験や虐待はその最たる例ですが、職場で長時間労働を強いられ、睡眠時間もロクにとれない、といった身近なものもあります。

 こうしたストレッサーは、脳に直接的なダメージを与えてしまいます。さらには、配偶者や親族や友人の死、失業やリストラ、離婚、自分自身や家族の病気などは、耐えがたいストレッサーとなるでしょう。

 しかし、「上司に仕事のミスを注意された」とか「奥さんと口論になった」とか、誰もが経験するようなことでも強いストレスを感じているのだとしたら、それは自分のスキーマに、原因の一つがあると考えるべきでしょう。

ストレス耐性とは「ストレスから上手に逃げる力」

 本来、ストレス反応というシステムは、人類が野生動物に襲われそうな危機が迫ったときに、交感神経の興奮を促し、「敵と戦うか」あるいは「敵から逃げるか」の非常事態モードになるために作動すると言われています。つまり、ストレスは私たちに危険を知らせてくれる警告の意味があるのです。

 現代の日本では野生動物に突然襲われるようなことはほぼありませんが、そのかわりに「パワハラ上司」や「わがままな取引先」や「クレーム客」という“敵”が現れました。あるいは、「仕事が納期に間に合わない」とか「満員電車ですし詰め状態」とか「社内での出世競争」とか、非常事態モードにならざるを得ない状況があちこちにあります。危険を知らせてくれる警告が、鳴りっぱなしなのです。