宇都宮ライトレールの
今後の課題とは

 もう一つの特徴が、拡張性だ。

 宇都宮ライトレールはJR宇都宮駅西口、東武宇都宮駅方面への延伸が検討されており、JR宇都宮駅の高架線の下をくぐることができるように、車両の高さを3622ミリとしている。さらに、将来的なJR線や東武線への乗り入れも想定し、軌間は1067ミリの狭軌としている。

 また、軌道法では路面電車の最高速度は時速40キロと定められているが、速度向上を見越して最高設計速度は時速70キロとした。開業時は最高速度時速40キロで運行するが、将来的には併用軌道では時速50キロ、専用軌道区間では時速70キロで走行できる特認を得る方針で、速度向上が実現した場合、所要時間は各駅停車で40分、快速は約33分まで短縮される見込みだ。

 だが、宇都宮ライトレールには課題も多い。コロナ禍の影響を受けて交渉が遅れたことで、一部で用地買収が完了しておらず、工事もまだ進んでいない個所が目立つ。今年1月に開業の1年延期が発表されているが、工事が予定通り終るかはまだ見通せない。

 開業後も懸念が残る。需要予測では利用者の70%以上が自家用車からの転換と見込んでいるが、LRTを新設した前例がないだけに、想定通りに転換が進むかは不透明だ(JR富山港線をLRTに転換した富山ライトレールの事例では、自家用車からの転換は一定数あるものの決して多くはない)。

 自動車社会である宇都宮において、道路の一部を線路に転用し、自動車から鉄道への転換を目指す試みは挑戦的ではあるが、想定通りに利用の転換が進まなければ、かえって道路渋滞が悪化しかねない。

 あわせてバス網を再編し、自家用車やフィーダーバス(幹線の鉄道に接続して支線の役割を果たす路線バス)とライトレールの乗り換え拠点となるトランジットセンターを整備する予定だが、これまで市街中心部まで直通していたバスが、乗り換えが必要になることで利便性が低下するとの懸念もある。

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 また、開業延期の発表と同時に事業費が当初予定の458億円から約1.5倍の684億円まで増加することが公表された。2001~2002年に実施した調査では概算事業費を約260億円としており、20年で2.5倍以上に膨らんだ計算になる。これにより、費用便益分析(B/C)が1を割り込む、つまり投資に対して便益が下回ることになった。

 佐藤栄一宇都宮市長は昨年11月の市長選で「需要予測には買い物客などが含まれず相当絞っている」として、予測以上の利用者を獲得したいと強調していたが、コロナ禍の影響も見通せない。宇都宮市と芳賀町には、これまで以上に事業の意義と方向性について説明が求められることになるだろう。

(取材協力/鉄道プレスネット)