「妥協している」と感じたら
ゼロリセットしてみる

 そこでもう一つ自分は妥協していないか?」と自問してみるのです。向上心の高い人なら、「ここは妥協しているな」と気がつくものです。そこで自分をプッシュし、それまでのアウトプットをいったんゼロリセットして考えられないか検討してみるのです。もちろん時間との勝負という側面はあるので、毎回は難しいですが、「他に良さそうな方向性がありそうなのに妥協している」と感じているなら、一度ゼロリセットすることは十分に元が取れる可能性があります。

 そのときに重要なのが、自分の能力や思考の癖を客観的に見るメタ認知能力です。自分を客観的に見て、「妥協しているな」と思ったら、「それでいいのか!」とカツを入れるわけです。人の力を借りることも有効です。アウトプットが途中までできたら、同僚や知人などにそれを見せて(もちろん、守秘義務は守ったうえで)、「これって自分の能力が200%くらい出ていると思う? 正直に教えて」などと聞いてみるのです。相手が信頼できるケースで「うーん」という返事であれば、それまでのことをゼロリセットしてみるチャンスです。ついでに、「どの辺が引っ掛かる?」「どの辺が勝手に自分がこだわっている点だと思う?」などと聞いてアドバイスを求めるのもいいでしょう。

バイアス(思考のゆがみ)に気をつける

 なお、あまりに完成まで近づいたときに上述のことをやっても、過去のことは捨てにくいものです。これをサンクコストへのこだわりといいます。サンクコストとはすでに過去に発生してしまい、将来を考えるうえでは忘れていいとされるコスト(お金や手間暇)ですが、通常、そこから自由になるのは容易ではありません。

 たとえば、書籍の執筆は人にもよりますが数ヵ月かかります。それを完成直前でゼロリセットしようといわれても、普通は無理なのです。そこでサンクコストがまだ小さいうちに―書籍の場合であれば企画書や、数ページを書いた段階などで―タイミングを見計らって自問したり他人の力を借りると効果的なのです。プロジェクトマネジメントやセールスにおける見込顧客の選定などもそうですが、手間暇をかけたあとで失敗確率が高いことが分かるのはダメージが大きいものです。クリエイティブに考えつつも、失敗確率の高いものは早期に振るい落とすバランス感覚が大事になります。

 合理化というバイアスもあります。これは、「こうなったのも仕方がない。なぜなら……」あるいは「これでいいや、なぜなら……」のように自分で何かしら理由をつけてしまうというものです。合理化は人間が心の平静を保つうえで普通に行うことであり、ある意味で人間らしい心の動きともいえます。これを回避するのは容易ではありません。容易ではないからこそ、自らをプッシュし、易きに流れないマインドセットが求められます。過去の仕事を振り返り、「なぜここで妥協したのか」など、ここでもメタ認知能力を用いて振り返りなどをしておくとよいでしょう。

★効果的なシーン
前例や過去のイマイチな仕事にとらわれずにベストのアウトプットを出せる

★一目置かれるためのポイント
①常に目的から発想する
②メタレベルで自分を見る/人の力をうまく活用する
③バイアスを意識し、それを緩和する手段を講じる

(本記事は『グロービス流「あの人、頭がいい!」と思われる「考え方」のコツ33』〔グロービス著、嶋田毅 執筆〕の抜粋です)