ただ、ここで挙げた数字はいずれも昨年7月時点のもので、現在の終電時刻とは異なる。というのも、今年3月のダイヤ改正で各線区の終電時刻が最大で30分程度繰り上げられたからだ。

 コロナ禍以前はオリンピック期間中の終電繰り下げを、ナイトタイムエコノミー振興を目的とした恒常的な終電繰り下げ、さらには終夜運転につなげたいという期待も政財界の一部にはあったようだが、オリンピックが延期されている間に、鉄道業界の潮目はまるっきり変わってしまったのだ。

終電繰り下げを強行すれば
事故やトラブルの恐れも

 今更、終電繰り下げと言われてもというのが鉄道各社の本音だろう。それでも、もし有観客でオリンピックを実施するのであれば、観客の足を確保するために終電時刻の延長が必要になる。しかし、その判断が先延ばしになっているため、鉄道事業者の対応方針が決まらないのである。

 終電の繰り下げは行われるのか。大会のオフィシャルパートナーでもあるJR東日本に聞いたところ、観客数の上限が決定した後、大会組織委員会の需要予測と会場、スケジュールを踏まえて、スムーズな輸送を提供できるよう対応すると説明した。

 つまり、無観客での開催が決定すれば終電延長は行わず、有観客で行われるとしても、観客数の上限によって、時刻の繰り下げ幅や列車本数を変更することになるようだ。乗務員の手配や車両の運用などを考えると、1カ月前にして方向性すら見えないというのは非常に悩ましい事態に違いない。

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 昨年予定していた終電繰り下げにあたっては期間中、間合い時間(終電と初電の間の時間)が減少し、設備の保守をはじめとする夜間作業ができなくなるため、1~2年前からさまざまな工事や検査のスケジュールを調整していた。

 しかし、オリンピックが延期となったことで日程を再調整する必要に迫られ、翌年度分の工事を前倒しで実施するなど対応に追われたという。JR東日本と東京メトロは、終電繰り下げを行うことになっても対応できるように、既に工事や検査のスケジュールを調整済みであると答えたが、短期間での再度の調整は現場の苦労も大きかったことだろう。

 いずれにしても、余裕のない中で終電繰り下げを強行すれば、そのしわ寄せは現場に行き、事故やトラブルの原因ともなりかねない。どのような結論であれ、政府には一刻も早い決断を求めたい。