ECBPhoto:PIXTA

欧州では新型コロナウイルスのワクチン接種が進み、景気回復期待が高まっている。加えて、昨年の反動もあり、足元のインフレ率は急上昇している。しかし、ECB(欧州中央銀行)はインフレ率上昇が一時的とみており、量的緩和の縮小には慎重だ。量的緩和縮小を始めても利上げ開始に至るまでにはかなり長い時間がかかりそうだ。(第一生命研究所 主席エコノミスト 田中 理)

景気回復期待高まるも
量的緩和縮小に慎重なECB

 新型コロナウイルスの新規感染者数の減少とワクチン接種の加速を受け、ここ数カ月で欧州の景気回復期待が急速に高まっている。

 既に多くの国が段階的な行動制限の解除に着手しており、ユーロ圏は4~6月期中にプラス成長に復帰する可能性が高い。先月末にはコロナ危機からの復興に必要な財政資金をEU(欧州連合)の加盟国に提供する復興基金(次世代のEU)の稼働準備も整った。

 7月以降、計画が承認された国に順次、初回資金の拠出が開始されよう。都市封鎖の間に先送りされていた需要の復元に、復興基金を通じた財政支出の拡大も加わり、年後半のユーロ圏経済は力強い成長軌道をたどる展開が予想される。

 欧州のコロナ禍克服が視野に入るなか、大規模な金融緩和でパンデミック下のユーロ圏経済を下支えしてきたECB(欧州中央銀行)が金融緩和の縮小を開始する時期も徐々に近づいてきている。

 年明け後の早すぎる金利上昇を警戒したECBは3月の理事会で、昨年春に開始したPEPP(パンデミック緊急資産買い入れプログラム)の買い入れペースを年初の数カ月に比べて大幅に加速する方針を示唆した。

 その後の景気回復期待の高まりとインフレ加速を受け、近い将来にテーパリング(買い入れペースの縮小、量的緩和縮小)を開始するとの観測が浮上したが、ECB高官による相次ぐ牽制発言で早期のテーパリング観測はやや後退した。

 6月の理事会では結局、2021~22年の景気と物価の見通しを大幅に上方修正し、短期的な景気のリスク判断を従来の下振れ方向から中立に引き上げたにもかかわらず、今後3カ月もPEPPの大幅な買い入れペースを維持する方針が決定された。ECBは早期テーパリングによる金融環境の引き締まりで、景気や物価の改善が脅かされることを警戒している。