――自動車業界で培った技術力が見事に生きたわけですね。
鳥越 はい。さらに、2004年には開発部を新設し、オリジナル製品の開発に取り組むようになりました。大手自動車メーカーの出向から戻ってきた有能な社員を「その技術を他の業界に生かしてほしい」とリーダーに据え、新卒採用で、理系だけでなく文系の女性も多く採用。この体制で、さまざまなヒット製品が生み出せるようになりました。
――最もヒットしたのは?
鳥越 12年に発売したフェイスクレンジングフォーマー「あわわ」です。プラスチック製の容器に洗顔料と水を入れて専用器具を上下に動かすと、たった10秒間でふわふわのきめ細かい泡を作り出せます。女性社員が「ネットで泡立てるのが面倒。もっと簡単にできないか」と考案したのです。有名な美容家の方がテレビで紹介したことで大ブレークし、現在までに累計150万個を販売しています。
――開発中の製品も教えてください。
鳥越 一つは医療従事者用のフェースシールド。病院の院長先生と共同開発しています。話を聞いてわかったのは、高齢の患者さんとコミュニケーションを取るには口元が見えることが重要だということ。耳が遠くなるので、声だけでは理解ができないそうなのです。しかし、マスクをしないで従来の薄いシールドをするだけでは、新型コロナウイルスの感染は防げません。そこでヘルメットのような形状で、内部をモーターで換気できるフェースシールドを開発しています。
もう一つは、水を浄化する簡易的なタンクです。恒常的に水処理が必要な場所には必ず浄化装置が設置されていますが、工事現場のように、短期間しか処理が必要ない場所にはなかなか設置されません。そういう場所でも簡単に水を浄化できるよう、直径5m程度のタンクを強化プラスチックで作りました。
環境意識が高まる中、必ず求められる製品になると思います。
●株式会社鳥越樹脂工業 事業内容/自動車用樹脂部品製造、健康・美容機器製造、従業員数/130人、売上高/16億円(2020年度見込み)、所在地/愛知県一宮市平島2-6-20、電話/0586-77-9191、URL/torigoejyushi.co.jp
――健康・美容分野以外にも広がっていますね。開発資金もかなり必要では?
鳥越 県の補助金も受けているのですが、それだけでは足りないので、いちい信用金庫さんから融資を受けています。担当者さんには日常的にいろいろな相談をし、経営に関するさまざまな情報提供を頂いております。
――今後の抱負をお聞かせください。
鳥越 最近は、あるべき姿を描いて、そこに向かって弊社は何をすべきか。そのような観点から製品開発を進めています。弊社の創業時からの社訓は「意努夢(いどむ)」。課題に対して諦めることなく挑んでいく。そんな姿勢を大切に、世の中に求められる製品を開発していきます。
(取材・文/杉山直隆、「しんきん経営情報」2021年7月号掲載、協力/いちい信用金庫)