かっぱ橋の老舗道具屋がコスト度外視で「過剰在庫」を続ける理由老舗道具店が掲げる異端の方針とは? Photo:PIXTA

視野を広げるきっかけとなる書籍をビジネスパーソン向けに厳選し、ダイジェストにして配信する「SERENDIP(セレンディップ)」。この連載では、経営層・管理層の新たな発想のきっかけになる書籍を、SERENDIP編集部のチーフ・エディターである吉川清史が豊富な読書量と取材経験などからレビューします。

コロナ禍で「しかたがない」と
諦めることに慣らされる

「こんなご時世だから」「今の状況では」という前置きが口にされることが多くなった。その後に続くのは、たいてい「しかたない」「無理だ」などの諦めの言葉だ。「こんなご時世だから外食できないのはしかたない」「今の状況では遠方まで買い物に行くのは無理だ。ネット通販で済ませよう」といった具合だ。

「こんなご時世」「今の状況」とは、言うまでもなくコロナ禍に見舞われた、1年以上続く現状を指す。緊急事態宣言やまん延防止等重点措置、メディアや街中にあふれる感染防止対策の呼びかけによって、私たちは「しかたない」と諦めることに慣らされているようだ。

 人々のそうした「諦め」が苦境の原因の一つになっているのが飲食店、小売りなどのリアル店舗だ。飲食店で楽しく会話をしたり、店の雰囲気を味わうのを諦め、フードデリバリーを利用したりする。小売店で、実際に商品を手に取って納得してから買うのを諦め、ネット通販で買う。どちらの場合も、フードデリバリーやネット通販の利便性に慣らされた顧客は、コロナ禍が収束しても戻ってこないかもしれない。

 ただでさえ小売店は、新型コロナウイルスが流行する以前から、アマゾンなどのネット通販の攻勢を受けていた。コロナ禍によって、それがさらに勢いづいたかたちだ。

 だが私個人としては、諦めたくない心境だ。以前、アマゾンで、商品写真や商品説明、レビューなどを参考に良さげなシャツを購入したところ、あまりのペラペラな材質に失望したことがあるからだ。アパレルのネット通販では、試着して返品できるサービスを取り入れているところもあるが、返品の手間などを考えると、ネット通販ならではの利便性が損なわれているような気もする。