文大統領の意向の変化で
正反対の裁判所判決

 この姿勢に変化が見えたのは、21年1月18日、ソウル中央地裁が日本政府に元慰安婦らへの賠償を命じた判決後に行われた新年の記者会見で、文大統領は「正直困惑している」「韓国政府は、両国間の公式合意と認めている」「今回の判決を受けておばあさんたちが同意できる解決策を探すため、韓日間の協議を続けていく」と述べた。

 また、徴用工についても日本企業資産の現金化について「両国間の関係に望ましくない」「外交的解決を探すことが優先だ」と述べた。

 文大統領の発言後の判決は、従来のものとは正反対のものであった。

 慰安婦問題に関し、ソウル中央地裁は4月21日「国際慣習法の国家免除原則に基づき、日本政府は訴訟の対象にはならない」と請求を却下する判決を言い渡した。

 徴用工に関してソウル中央地裁は5月7日、日韓請求権協定に「『完全かつ最終的解決』『いかなる主張もすることはできない』という文言がある意味は、個人請求権の完全な消滅まではいかないが、韓国国民や日本や日本国民を相手に訴訟で権利を行使することは制限されるという意味で解釈することが妥当だ」と断じた。これは大法院判決に真っ向から挑戦する内容である。

 この二つの判決に共通することは、外交的考慮が払われていることである。

 慰安婦については、2015年の合意に基づき99人が支援金を受領していること、徴用工については「国際的に招きかねない逆効果」を考慮していることである。