この二つの判決が共に外交的考慮を払った内容となっていることは、文大統領の意向が反映されているのであろう。

 しかし、韓国の裁判所が百八十度異なる判決を次々に出していることについて法曹界からは懸念の声が上がっている。

 日本に厳しい判決がなされた後、文政権は「司法権の判断は尊重されなければならない」として日本の抗議を無視してきた。しかし、徴用工問題などで原告の請求権を認めない判決が出ると、法律家出身の与党代表と元法務部長官は「朝鮮総督府の判事か」と批判し、青瓦台には当該裁判官の弾劾請願まで起きている。これは裁判官の独立に対する挑戦である。

 こうした事態に対し中央日報は、大統領の意向にあった判決だけを支持する「選択的尊重」だとしている。そして中央日報は文大統領の言う被害者救済のため、政府は司法府だけに任せるのではなく、積極的な姿勢で政治・外交的に解決すべきだったと論じている。

歴史問題は小手先の修正ではなく
韓国が解決策を示す以外ない

 文大統領はG7における日韓首脳会談を実現するため、慰安婦や徴用工問題に対する評価を変え、裁判所は文大統領の支持基盤である市民団体の意向を無視して、これまでの判例を覆す原告敗訴の判決を出した。これは文大統領にしてみれば「清水の舞台」から飛び降りる気持ちだったのであろう。

 しかし、これは旧来の判決を取り消したわけではなく、二つの相異なる判決が共存した状態になったにすぎない。二つの問題が韓国で完全に終結したとは言えない状況である。