6日夜、日本代表の壮行会にビデオメッセージを寄せた菅首相は「がんばれ、ニッポン!」とガッツポーズを見せて、前回1964年の東京五輪で、「東洋の魔女」と呼ばれた日本の女子バレーボールチームが金メダルを獲得したことに言及して、このように述べた。

「日本人がメダルを取るたびに、日本は世界と戦えるんだということを強く感じた」

 先ほど紹介したように、世界の多くの国は、自国の選手がメダルを取っても「へえ、知らない選手だけど、頑張っているんだな」というリアクションのようだ。頑張って、良いパフォーマンスをしたのは、あくまでアスリートなので、個人へ尊敬の念が生まれる。

 しかし、16歳だった菅少年はそう思わなかった。女子バレー選手個人の手柄を、「日本」と「日本人」の手柄にすり替えて、「日本も世界と戦える」とナショナリズムへ結びつけてしまっているのだ。

 というと、何やら菅首相を批判しているように感じるかもしれないが、そういうつもりは毛頭ない。菅首相だけではなく、当時の日本のほとんどの子どもたちがそう思ったはずだ。なぜかというと、彼らの親も政治やマスコミによって、「スポーツ=日本人の優秀さを示すもの」という洗脳を受けてきたからだ。

「わが国民の心臓が世界中で一番強い」から金メダルが獲れた!?

 例えば、菅首相の父、和三郎氏が18歳くらいの頃、「読売新聞」にはこんな見出しが大きく掲載されている。

「諸君喜べ 日本人の心臓は強い強い、世界一 オリムピツクに勝つも道理 統計が語る新事実」(読売新聞、1936年10月30日)

  記事では、当時の「国民体力考査委員会」が日本人の死亡原因を調査したところ、心臓と癌が原因で亡くなった人が1万人につき7人以下で、フランスの15.3人、アメリカ、イギリス、イタリアの8人などと比べても少ないことを紹介している。それをこの年にあったベルリンオリンピックでアジアの国として初めてマラソンで金メダルを獲得したことや、競泳の前畑秀子などが4つの金メダルを獲得したことに結びつけて、こう大喜びしているのだ。