ステークホルダー資本主義に基づくESG(環境、社会、ガバナンス)やパーパス経営といったビジネスの在り方は、今や世界の経営者の常識となっており、既に名だたる大企業が実践に移行している。連載『ザ・グレートリセット!デロイト流「新」経営術』の#1は、こうした新たな潮流の背景や、それが企業にもたらす影響を分かりやすく解説する。(デロイト トーマツ グループ 邉見伸弘、南 大祐)
コロナ禍に「株主資本主義」が終焉
100年を経て再注目される渋沢栄一の経営論
「富をなす根源は何かといえば、仁義道徳。正しい道理の富でなければ、その富は完全に永続することはできぬ。ここにおいて論語と算盤という懸け離れたものを一致せしめることが、今日の緊要の務めと自分は考えている」
「日本資本主義の父」と呼ばれ、現在大河ドラマで注目が集まる実業家、渋沢栄一が『論語と算盤』で説いた経営の在り方だ。P・F・ドラッカーが「世界のだれよりも早く、経営の本質は“責任”にほかならないということを見抜いていた」と称賛した渋沢の教えと同様な議論が、100年後の現在、再び繰り広げられている。
「世界のCEOは、株主だけではなく全てのステークホルダーに対して責任を負っていることに気づかなくてはいけない。『ビジネスの唯一の目的は利潤の追求だ』というこれまでの考え方は終わった。これからのビジネスの目的は『世界をより良くすること』にある」
ダボス会議で有名な世界経済フォーラムが今年1月に開催したオンライン会合(ダボス・アジェンダ)において、セールスフォースCEO(最高経営責任者)のマーク・ベニオフがこう述べた。
一見当たり前の発言だが、実はここにポストコロナ時代の世界経済を読み解くヒントがある。