海外の節税#5Photo:2d illustrations and photos/gettyimages

複数の証券会社が多額の損失を被った、アルケゴス問題で注目を浴びたファミリーオフィス。富裕層の個人資産を管理する運用会社のことだが、今、日本の富裕層たちは銀行や証券会社、プライベートバンクを見限り、ファミリーオフィスに関心を寄せている。特集『海外の節税 富裕層の相続』(全21回)の#5では、それはなぜなのか、いくら資産が必要なのか、知られざるファミリーオフィスの仕組みについて解説する。(ダイヤモンド編集部編集委員 藤田章夫)

資産管理会社「ファミリーオフィス」を
知らしめたアルケゴスショック

 アルケゴスショック――。

 特定の超富裕層の資産管理を行う会社、ファミリーオフィス。富裕層の間でひそかに人気が高まっているが、図らずも、その名を世に知らしめたのは、複数の大手金融機関に合計1兆円に上る多額の損失を計上させ、今年3月に破綻したアルケゴス・キャピタル・マネジメントだった。日本でも、野村ホールディングスが約2200億円に上る損失を出したのを筆頭に、複数の銀行などが多額の損失を出す事態に陥っている。

 アルケゴスといえば、有名ヘッジファンドのタイガー・マネジメントで経験を積んだ、ビル・フアン氏が立ち上げたファミリーオフィス。破綻した理由は、多額の借り入れをベースにした過剰なレバレッジをかけた取引で失敗したことだ。

 リーマンショック以降、金融機関の過剰なリスクテイクについては厳しい規制がなされてきた。だが、複数の投資家から資金を集めて投資する投資ファンドとは異なり、ファミリーオフィスはお金持ちが自分のお金を運用しているという立て付けのため、投資ファンドのように金融当局の監督を受けていなかった。故に、過大なリスクが顕在化しなかったというわけだ。

 まさに、ファミリーオフィスは秘密のベールに包まれた存在といえるが、その歴史はかなり古い。諸説あるが、6世紀ごろに欧州の王族の資産を管理し始めたのが起源とされ、19世紀に入ると米ロックフェラー家が一族の将来の繁栄を狙ってファミリーオフィスを設置したことで、超富裕層の間で広まっていったとされる。

 つまり、ファミリーオフィスの本質は富裕層の永続的な資産管理や継承にあるわけで、アルケゴスのような事例は“異端”といえるだろう。

 日本でもファミリーオフィスは秘密のベールに包まれた存在だったが、今、日本の富裕層たちは銀行や証券を見限り、ファミリーオフィスに関心を寄せ始めている。だが、資産規模はどれくらいあればよいのか、プライベートバンクと資産管理会社とは何が違うのか。選ぶ上での注意点は何なのか――。

 それらの疑問に対し、複数のファミリーオフィスの運営管理者たちへの取材を基に、次ページ以降は、ファミリーオフィスの秘密のベールをめくっていく。