野村ホールディングスやみずほフィナンシャルグループに巨額の損失をもたらしたアルケゴスショック。ただし、問題が発覚するまでは米国事業は両社の成長ドライバーだった。“第2のアルケゴス”リスクの有無は証券会社の先行きを左右しかねない。特集『戦慄のK字決算』(全17回)の#7では、証券業界が抱えるリスクを分析する。(ダイヤモンド編集部 重石岳史)
リーマン買収した野村HDの苦難の10年
ようやく見えた光明の先にまさかの“落とし穴”
「高い授業料を払った」――。2019年12月、野村ホールディングス(HD)のグループCEO(最高経営責任者)だった永井浩二氏はダイヤモンド編集部の取材にそう述べていた。野村が「高い授業料」を払い続けたのは、長年苦戦が続いた海外事業である。
野村HDは08年の金融危機で経営破綻した米リーマン・ブラザーズの欧州・アジア太平洋事業を買収。約8000人のグローバル人材を引き継ぎ、世界の「バルジブラケット」(巨大投資銀行)の仲間入りを果たした。
だが買収後の収益は安定せず、海外事業の税引き前損益は10年3月期、17年3月期、20年3月期を除いて赤字。19年3月期に至ってはリーマンなど海外事業ののれんで814億円の減損損失を計上し大幅赤字に沈んだ。人材流出を防ぐため、リーマン時代の高額報酬を維持したが故のコスト負担も、経営に重くのしかかっていた。
日本の証券会社は海外で戦えない――。そんな定説が変わりつつあったのが、21年3月期だ。野村HDの米州事業は記録的な伸びを見せ、第3四半期累計の税引き前利益で1268億円という過去最高額をたたき出したのだ。
「日本の会社は米国で1番になれないというイメージを持たれているかもしれないが、われわれが狙ったところでしっかり(利益を)取れている」。野村HDの米州地域ヘッドなどを歴任し、永井氏からCEO職を引き継いだ奥田健太郎氏は、昨年8月のインタビューでそう胸を張っていた。リーマン買収後の苦難の「構造改革」が奏功し、米国を含む海外事業は野村HDの成長エンジンの核となる――。そんな自負が垣間見えた。
コロナ禍で日本企業の業績が「K字」に分かれる中、米国市場の成長を取り込めた野村HDは、その時点では明らかに勝ち組だった。
しかし、実は「授業料」の支払いは終わっていなかった。それも勝ち組から一気に負け組へ暗転しかねない、高額授業料の支払いを余儀なくされる“事件”が起きてしまったのだ。
それが、3月末になって明らかになった“アルケゴスショック”である。