テレビ局の都合を押し付けないで、若い世代のつなぎ止め

 TVerは、テレビ局の事情や制作者の都合よりも、あくまで「ユーザーファースト」でふりきりたいと、龍宝正峰代表取締役社長(57歳)は語る。

「若い世代を中心に『今、テレビじゃないだろう』って思っている人が結構いるじゃないですか。放送局のしがらみもあってやれなかったこともある。

 ユーザーからすれば、リアルタイムで見なきゃいけないとか、家で見なきゃいけないっていう行為が面倒くさがられている。けれど、テレビのコンテンツが排除されているわけではない。だから、ファスト映画がはやったり、テレビ番組が他の動画サイトで違法に見られてしまったりしている。

 安心・安全なコンテンツをいつでもどこでも手軽に見ることができるサービスを作ることができれば、強さを発揮できるんじゃないか」(龍宝氏)

 若者のテレビ離れが叫ばれる今、TVerがハブとなって、つなぎ止めの役割を担っている。それが当初の「見逃し配信」の目的だが、それだけではユーザーは離れていってしまう。そこで、さまざまな機能も追加・改良してきた。

 例えば、「シーンシェア」という機能。TVerのユーザーが、SNSなどでシェアしたいと感じた場面で一時停止してシェアボタンを押すと、URLが生成される。そのURLをクリックした人はTVerでその部分をすぐに見ることができるのだ。

 最近では「あちこちオードリー」(テレビ東京系)で、新垣結衣さんと結婚を発表したばかりの星野源さんが登場し、「結衣ちゃん」と言ったシーンが、SNSで話題となり、特に再生されたという。また、昨年放送された人気ドラマ「半沢直樹」(TBS系)では、香川照之さん演じる大和田取締役が、主人公の半沢に馬乗りになって土下座をさせるシーンも再生数が伸びたようだ。

 他にも好きな番組を登録するマイリストや、動画を1.75倍の速度で見られる機能などがあり、特に若い世代が活用しているという。

 このようにユーザーが好きなように見たり、番組を切り貼りしたりするような機能は、テレビ局が嫌がる風潮があった。しかし、TVerはあくまで「ユーザーファースト」で考える。当たり前のようだが、実はテレビ業界が近年、向き合えていなかったことなのかもしれない。

 この7月には、会社のミッションも新たに作った。『テレビを開放して、もっとワクワクする未来を TVerと新しい世界を、一緒に。』というものだ。トップダウンの目標ではなく、全社員約70人と一緒にリモートワークで案を出しあって、考えたのだという。そんな決め方も、ある意味テレビくさくない。