コロナ感染の拡大から1年以上がたっても若年層には満足な就職口がない、中小企業や自営業者の経営は行き詰まっている、不動産価格の高騰で若者は家を持つ夢が消えてしまった。こうした現実に直面する中、革新系がより公正な社会を作るという幻想は失望に変わった。

 このような状況で行われる次期大統領選挙は、保守対革新のイデオロギー論争よりも、国民生活をどちらがより安定した豊かなものにしてくれるかが最大の争点になるだろう。

 それはソウル・釜山市長選挙における与党の惨敗、および野党「国民の力」代表選挙において、過去の国会議員選挙で3回連続落選した36歳の李俊錫氏が選ばれたことからも読み取れるだろう。

 尹氏は、大統領選挙立候補の会見で文政権を痛烈に批判した。しかし、今後の選挙運動で重要なことは、文大統領批判とともに国民生活の向上にどのようなビジョンを示していくかである。

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 李代表は先述の通り、「私は絶えず話をしてきたように尹前総長を通じて大統領選挙で勝利するという意思は変わらないと考えてきた」と述べた。尹前総長を最も支援できるのは李代表である。

「国民の力」の大統領候補はまだ乱立気味である。李代表が尹氏を支持できるのは9月15日から始まる党公認候補を決める党の予備選で他を引き離して大きくリードするか、11月の党候補決定選挙で勝利するかである。

 それと同時に、尹氏およびその周辺を巡るスキャンダルから尹氏はどう身を守るかである。そのためにも「国民の力」の支援を得るとともに、「国民の力」に尹氏を代替できる有力候補を作り上げることで「共に民主党」の攻撃対象を尹氏だけに絞らせないことが重要である。

 その意味で、尹氏が「国民の力」に入党し、党内で大統領候補を争うことで、党の基盤を底上げしていくことが同党にとっても肝要である。李代表の発言はこうした事情を背景としている。

 いずれにせよ、次期大統領を巡り、尹氏が7月中に「国民の力」に入党したことは大きな意味のあることのように思われる。

(元駐韓国特命全権大使 武藤正敏)